♪《Foxie》La petite renarde rusée「女狐ビストロウシュカの物語」
作曲:Leoš Janáček(ヤナーチェク1854~1928)
内容:R. Těsnohlídekの小説「狐のビストロウシュカ」に基づき、ヤナーチェク自身が台本を書いた7作目のオペラ。動物が沢山登場してリズムに富み、童話または民話風だが、その奥に、死と再生を繰り返す生命の不思議や自然への感動または畏怖の念が織り込まれている。ヤナーチェクの人生観が込められた第3幕3場の森番のエピローグは、本人の希望でヤナーチェクの葬儀に演奏された。女狐ビストロウシュカ以外の歌手は、人間役と動物役などの複数の役を兼ねている。 3幕 チェコ語
あらすじ:
第1幕 第1場 真夏の黒く乾いた峡谷
穴熊(バス)がパイプをふかし、蝶やトンボが飛び回る。そこへ密猟者を見張る森番(バリトン)が銃を持って登場し、疲れたと言って休憩する。彼の血を吸った蚊を、カエル(ソプラノ)が捕まえようとし、そこへ来た幼い子狐ビストロウシュカ(子どもソプラノ)が、カエルを見てちょっかいを出す。驚いたカエルは跳ねて森番の上に落ちるので、森番が目を覚まし、子狐ビストロウシュカを見つけ「子どもたちが喜ぶ」と、彼女を捕まえて子どもの待つ家へ連れて行く。
第2場 森番の家の庭。秋の午後
森番の小屋で育ったビストロウシュカ(ソプラノ)が、淋しさに泣いていると、犬のラパーク(メゾソプラノ)が、「もうすぐ恋の季節もやってくるさ」と慰めて言い寄るが、彼女は逃げる。森番の息子のペピーク(ソプラノ)が、友達のフランティーク(ソプラノ)を連れて登場し、ビストロウシュカを棒でつつき始め、彼女は怒ってペピークにかみつく。その悲鳴を聞いて出てきた森番の夫妻は、ビストロウシュカを縄で縛りつけてしまい、彼女は泣きながら寝入る。間奏曲の後、夜が明けて、犬のラパークが、ビストロウシュカを慰める。雄鶏が縄に繋がれたビストロウシュカを嘲笑するので、彼女はその態度と雌鶏や雛鳥の盲目的な服従に腹を立てて「雄鶏の支配に反抗して新しい秩序を作るんだ」と演説するが、雌鶏 たちには全く理解できない。ビストロウシュカは「雌鶏たちの進歩の無いのを見るくらいなら死んだほうがまし」と死んだ振りをして、鶏たちが確かめに近よると彼らを殺して、縄を噛み切って森へ逃げて行く。
第2幕 第1場 秋の夕方の森の中
ビストロウシュカは穴熊の家に目をつけ、「家を覗くな」と不愛想に言う穴熊(バス)に対して大げさに叫び、森の生き物たちの同情を誘って、うまく穴熊を追い出して住み着いてしまう。
第2場 パーセクの経営する居酒屋。夜
校長(テノール)と森番がトランプをし、それを神父(バス)が見ている。森番が校長の片思いのことでからかうと、神父は森番に「飼っていた女狐に逃げられたそうだな」と話しを向け、校長は帰ってゆく。居酒屋の主人パーセク(テノール)が来て、神父に「新しい借家人が来ますよ」と言う。神父が帰り、森番は酒を飲むが、パーセクにまた狐の話をされて、「あいつは逃げたんだ、俺は殺さないよ」と言う。
第3場 森の中の小径。ヒマワリの茂み
ビストロウシュカがヒマワリの茂みから、千鳥足で御帰宅の校長をからかい、酔っている校長は、片思いの相手テリンカだと思い抱きしめようとするが、ヒマワリの茂みに落ち込んでしまう。同じくご機嫌の神父も、座り込んで、若い時の恋の思い出を回想している。突然、森番が「悪党め」と叫ぶので、校長と神父は目が覚めて逃げ出す。森番が、森から出てきて「あれは俺の女狐だった」とつぶやく。
第4場 女狐の巣穴の前。夏の夜
ビストロウシュカは、彼女の巣穴の前を通りかかった雄狐ズラトフシュビテーク(ソプラノ)と恋に落ちる。雄狐は彼女を散歩に誘い、彼女は、自分が森番の所で育ち、ひどい目に遭わされて逃げてきたこと、うまく巣穴を手に入れたことを話す。雄狐が狩に行き、ビストロウシュカの好物のウサギを持って帰ってくる。彼らは互いに愛を告白し、二人で巣穴の中に消える。きつつき(アルト)が、二人の結婚を正式に発表して、動物たちの陽気な祝いのダンスとなる。
第3幕 第1場 森の中の秋の午後
ビストロウシュカは、雄狐ズラトフシュビーテクと幸福な家庭を築き、子狐たちにも恵まれてる。
鶏の行商人で、時々密猟もするハラシュタ(バス)が登場して、そこへ森番が通りかかり、ハラシュタは「今度テリンカと結婚することになった」と話す。森番は、死んだ野兎を見つけ、ハラシュタを疑うが、彼は最初からここにあったと言い訳する。森番は、それがあの女狐の仕業だと悟り、罠を仕掛けて去る。ビストロウシュカが夫や子どもとやって来て、森番の罠に気づき子どもたちを警戒させる。戻ってきたハラシュタは、ビストロウシュカたちを見つけ、妻になるテリンカに狐の襟巻きをプレゼントしようと思い、鶏の籠を置いて銃を向ける。ビストロウシュカが、おとりとなって翻弄する間に、夫と子供たちはハラシュタの鶏を食べてしまう。怒ったハラシュタは、子どもをかばうビストロウシュカを狙って射殺する。
第2場 パーセクの居酒屋の庭
パーセクの妻(ソプラノ)が校長の相手をしていると、森番が登場し、ビストロウシュカの巣穴がもぬけの殻だったと話す。校長は「今日テリンカが結婚する」と失恋にうちひしがれている。パーセクの妻は、テリンカが新しい狐の襟巻きを持っていたと話す。森番は「自分たちも年をとった」と言って、店を出て行く。
第3場 森の峡谷の夕方
森番が、新婚当時の想い出を回想し、アリア「それはおとぎか、本当のことか?」を歌う。人間誰でも年をとれば、情熱的な愛も失せてしまうが、その恐れを、輪廻を認めることで克服する作曲者の諦観が心を打つアリア。 いつの間にか眠ってしまった森番は、夢の中でビストロウシュカにそっくりな若い女狐を捕まえようとするが、捕まえたのはカエルだった。そう言えば、ビストロウシュカを捕まえた時もカエルがいたと想い出していると、カエルが「あの時、あんたの上に落っこちたのはおいらの祖父さんだよ、いつもその話をしてくれた」と告げ、繰り返される生命の再生、自然のサイクルに感動する中、幕となる。