♪ Don Pasquale「ドン・パスクヮーレ」
作曲:Gaetano Donizetti(ドニゼッティ1797~1848)
内容:ロッシーニやベッリーニとともに19世紀前半のイタリアを代表するオペラ作曲家のドニゼッティは70曲に及ぶオペラを作曲し、ロマン派歌劇の開拓者となった。作曲者自身の手が加わった台本で、誰もが楽しめる喜劇。
3幕 イタリア語
あらすじ
第1幕:
序曲の後、ずっと独身でいた裕福な老人ドン・パスクヮーレ(バス)が、友人で藪医者のマラテスタが来るのを待ちわびている。パスクヮーレは、自分の甥エルネストを良家の娘と結婚させて自分の財産を継がせようと考えていたが、当の甥は若く美しい未亡人に夢中で伯父の勧める縁談には見向きもしない。業を煮やしたパスクヮーレは、マラテスタに「自分が結婚して直系の跡取りを作ってその子に財産を譲る」と、自分の花嫁探しを依頼していたのだ。
そこへ待ちに待ったマラテスタ(バリトン)が登場。実はパスクヮーレの甥エルネストの親友である彼は、ある策略を計画して「若くて美しい嫁さんを見つけたぞ」と、パスクヮーレに報告する。その策略とは、パスクヮーレの甥が夢中になっている未亡人ノリーナが、修道院にいるマラテスタの妹になりすましてパスクヮーレの偽の花嫁になり、婚姻届けにサインをしたとたんにわがまま放題の女に豹変して、パスクヮーレを辟易させて「こんなことなら、甥が結婚してくれた方がまだましだ」と思わせ、甥エルネストとノリーナの結婚をめでたく認めさせようという案である。
マラテスタは得意げに≪天使のように美しい≫と有名なアリアを歌って花嫁候補を褒め上げ、喜んだパスクヮーレは「子どもの半ダースも生ませてにぎやかに遊ばせよう」と大はしゃぎ。甥のエルネスト(テノール)が現れるので、パスクヮーレは「勧めている縁談に応じるならば財産を相続させるが」と持ち掛けるが、未亡人ノリーナを愛しているエルネストはきっぱりと断り、腹を立てたパスクヮーレは「お前の相続権を取り上げ、わしが結婚する。出て行け」と宣言する。冗談かと思ったエルネストは、その話には親友のマラテスタが絡んでいることを知って驚き、相続権を失えばノリーナとも結婚できないと愕然とする。
未亡人ノリーナの家では、ノリーナ(ソプラノ)がロマンティックな小説を読み、有名なアリア≪騎士のあのまなざしを≫を歌う。そこに「伯父の家から追い出されたので、これから遠くに行く」という絶望して別れを告げるエルネストからの手紙が届き、ノリーナは呆然となる。そこへマラテスタが現れ、「もうおしまいよ」と嘆くノリーナに、自分の策略を説明し「私の言う通りにすればきっとうまくいく」と自信満々。ノリーナもその策略に「任せておいて!」と賛成して、パスクヮーレ攻略のために未亡人ノリーナが純情な娘になりすます準備を始める。
第2幕:
今回の出来事が、マラテスタが計画した自分とノリーナのための策略であることを全く知らないエルネストは、突然降りかかった不幸を嘆いてアリア≪遥かなる土地を求めて≫でノリーナへの純愛を歌い淋しく立ち去る。
結婚の準備に大わらわのパスクヮーレが、浮き立つ心を抑えながら花嫁の到着を待つ。マラテスタが、ヴェールを被ったノリーナを自分の修道院にいた妹だと偽って紹介し、その初心で清楚な素振りにパスクヮーレは一目で気に入り、その上彼女が結婚を承諾するので直ぐに結婚すると宣言。こんなこともあろうかとと、マラテスタが、偽の公証人(バス)を連れてきていて、ただちに結婚の手続きを始める。ところがいざ署名をしようという時に、エルネストがやって来て、伯父と結婚するのが自分の愛するノリーナであることに驚くが、マラテスタとノリーナが何やら意味ありげに「これは芝居だ」と耳打ちするので、何もわからぬまま結婚の証人にされてしまう。結婚が成立した途端、花嫁の態度が豹変し、抱き寄せようとする夫パスクヮーレを拒絶して、召使たちに高価な注文を勝手に命じたり、給料の倍増を発表したりとさんざんに振る舞う。唖然とするパスクヮーレ、策略が分かって安心するエルネスト、「してやったり」とほくそ笑むマラテスタの四重唱で、にぎやかに2幕の幕が下りる。
第3幕:
召使たちが、花嫁が手当たり次第に注文した品物を運び込みながら右往左往し、パスクヮーレは、山積みされた勘定書きを眺め「これでは破産だ。何とかせねば」と嘆く。そこへ着飾った花嫁=ノリーナが現れて外出しようとするので、パスクヮーレは引き留めようとするが、逆に平手打ちを喰わされる。「離縁だ」と怒るパスクヮーレを尻目に、ノリーナはわざと逢引きの恋文を落として出かけて行く。「今夜9時に庭で」と書かれているその手紙を読んだパスクヮーレは、激怒して「マラテスタを呼べ」とわめきながら出て行く。召使たちが老主人の噂をする合唱に続き、現れたマラテスタとエルネストが次なる策略の打ち合わせをする。再び登場したパスクヮーレが、惨めさをマラテスタに訴え、マラテスタは「ならば庭で不義の現場を押さえて捕えよう」と提案し、2人は愉快な二重唱を歌う。
庭ではエルネストの歌うセレナードを合図にノリーナが現れて、二人は愛の二重唱を歌う。
隠れていたパスクヮーレとマラテスタが飛び出すので、エルネストは素早く身を隠す。「男はどこだ」と問い詰めるパスクヮーレに、ノリーナはしらを切り、大げんか。マラテスタが進み出て「エルネストに望み通りのノリーナとの結婚を許して財産を譲り、代わりにパスクヮーレの花嫁を追い出せば」と解決策を提案する。結婚はもうこりごりのパスクヮーレは、その提案に一も二もなく承諾する。マラテスタは、出てきたエルネストに「伯父さんは君とノリーナとの結婚を許してくれたよ」と伝え、エルネストは「そのノリーナこそがこの女性なのだ」と言って改めてノリーナを紹介する。パスクヮーレは、自分が彼らにはめられていたことを悟るが、寛大にそれを許して、マラテスタの「ブラヴォー、ドン・パスクヮーレ」で始まるフィナーレで、めでたく幕となる。