♪ Les contes d’Hoffmann「ホフマン物語」
作曲：Jacques Offenbach（オッフェンバック1819～1880）
内容：ドイツロマン派の幻想文学の鬼才E. T. A Hoffmannの小説から3つの物語を用いて脚色したJ. Barbier (1825～1901)とM. Carré (1819～1872)の同名の戯曲に基づいて、J. Barbierが台本を書いた。ドイツ生まれでフランスに帰化した作曲者オッフェンバックは、｢天国と地獄｣というオペレッタが有名だが、約90のオペレッタや劇作品を作曲し、最後にこのオペラを手掛けたが未完で病死し、友人のE. Guiraudが完成させたために数多くの版がある。各幕の奇抜な内容や、構成の優れた楽しい名作。全5幕 フランス語
あらすじ：（注 このオペラには数多くの版があり、今回の公演と異なる箇所がある可能性もあります）
第1幕 プロローグ
ルーテルおやじ（バス）の酒場に、酒の精とともに芸術神ミューズ（メゾソプラノ）が登場する。詩人ホフマンの心を恋への情熱が占めているのを知るミューズは、彼が詩と芸術に愛を捧げるようにするため、彼の親友ニクラウスの姿に変身する。
上院議員リンドルフ（バリトン）が、オペラ歌手ステラの召使アンドレ（テノール）と現れ、リンドルフはアンドレから、自分の想い人ステラのホフマンへ宛てた恋文を買収する。そこには「オペラが終わるまで2時間程待っていてね」と書かれていて、リンドルフは「オペラの後には私が君の寝室の扉を開けるさ」と歌う。陽気な学生たちの一団が酒場に現れ、そこに詩人ホフマン（テノール）と親友ニクラウス＝実はミューズ（メゾソプラノ）がやってくる。学生たちにせがまれたホフマンは、陽気な≪クラインザックの物語≫を歌うが、途中で脱線して恋しい歌姫ステラの面影を歌うようになる。学生たちはさらにホフマンに恋物語をせがみ、ホフマンは「最初の女性はオランピア…」と自分の失恋歴を語り始める。
第2幕 自動人形オランピア
科学者のスパランツァーニ（テノール）の書斎にホフマンが尋ねてくる。スパランツァーニはホフマンが詩人の道を捨て、科学者になる決心をしたことを喜び、今夜の夜会で娘のオランピアを社交界にデビューさせるのだと言って、助手コシュニーユ（テノール）とともに酒造へ向かう。ホフマンが、カーテンの隙間からオランピアを見つめていると、親友のニクラウスが来て、傍によって声をかけろとけしかける。ホフマンが見ているだけでよいと言い張るので、ニクラウスは皮肉たっぷりに精巧な人形について語るが、恋に落ちているホフマンには、その意味がわからない。そこに人形作りのコッペリウス（バリトン）が登場し、ホフマンが熱心にオランピアを見詰めているのを見てほくそえむ。コッペリウスは、二人に様々な怪しげな道具を売りつけようとし、ホフマンに魔法の眼鏡を勧め、試した彼には不思議なことに美しい人間オランピアが見え、夢うつつのまま彼はその眼鏡を購入する。コッペリウスはスパランツァーニを見つけ、オランピアの代金を要求する。スパランツァーニは倒産した会社の不渡り手形を渡し、コッペリウスはそうと知らずに満足し、オランピアに夢中のホフマンを笑い、結婚させればよいとそそのかして退場する。夜会が始まり、オランピアが招待客たちの前に披露される。素晴らしい出来のオランピアに賛辞が送られるが、魔法の眼鏡をかけているホフマンには、彼女は全く人間にしか見えない。スパンランツァーニは、オランピアに有名なアリア≪小鳥はくましでの木にとまって≫を歌わせる。歌の途中で力尽きるたびに、スパンランツァーニが慌ててゼンマイを巻くが、聞きほれているホフマンは気づかない。招待客たちは夜食の会場に向かい、食べないオランピアは残り、スパランツァーニは面白がってホフマンに娘の付き添いを頼む。 二人になったホフマンはオランピアに愛を囁くが、彼女は突如動いて出て行ってしまう。戸惑うホフマンに、ニクラウスが遠まわしにオランピアが人形であることを伝えるが、ホフマンは愛する女性が中傷されていると思って聞き入れない。一方、スパランツァーニに渡された手形が不渡りであることに気づいたコッペリウスが夜会に乗り込んでくる。夜食後、ホフマンがオランピアとダンスを踊るが、急に踊りが速くなり、ついには壊れる勢いでまわりだす。ホフマンは跳ね飛ばされ、スパランツァーニが何とかオランピアを止めて下がらせるが、飛ばされたホフマンの眼鏡が壊れてしまう。突然オランピアの部屋から機械の壊れる音がして「コッペリウスがオランピアを壊した」とコシュニーユが言い、出てきたコッペリウスと怒ったスパランツァーニは言い争う。魔法の眼鏡のないホフマンはオランピアを見て、初めて自動人形であったことを知って絶望する。招待客たちは、人形に本気で恋していたホフマンを笑う。
第3幕 歌手アントニア
アントニア（ソプラノ）がチェンバロの前に座って、ロマンス≪山鳩は飛び去った≫を歌っている。彼女の父クレスペル（バス）が「お前の母親と同じように、歌い過ぎて体を壊してしまわないように」と彼女に歌うのを禁ずる。アントニアは、有名な歌手の娘として生まれて歌えないのは辛いと言いながらも、父に約束し部屋から出ていく。クレスペルは、召使いのフランツ（テノール）に、誰も家に入れてはならないと命じて外出するが、フランツはそこへやってきたホフマンと親友ニクラウスを中に入れてしまう。「突然引っ越してしまい探し出すのに苦労した」と言うホフマンの声に気付いたアントニアが、部屋に駆け込み、久々に会った二人は再会を喜び、明日夫婦になろうと約束する。アントニアはホフマンに歌うことを禁じないことを確認し、ホフマンはそれを不思議に思う。父クレスペルが戻ってきた気配にアントニアは部屋に下がり、ホフマンは疑問が解けるかと考えて身を隠す。フランツが医師ミラクル博士の来訪を告げ、クレスペルは「妻が死んだ日に現れた死神のような男は入れない」と言うが、強引にミラクル博士（バリトン）が現れる。ミラクル博士は「娘さんは音楽の悪魔にとりつかれ病気になったので治療が必要だ」と、かまわずに誰も座っていない椅子に向かい、そこにアントニアがいるかの如く診察を行う。その悪魔的な光景を隠れて見ていたホフマンは驚く。ミラクル博士は彼女に薬と歌を歌うことを勧めるが、クレスペルが必死に追い払う。クレスペルとミラクルが出て行った部屋に残ったホフマンは、アントニアにもう歌わないように約束させて家を出る。一人になったアントニアの所へ、突如現れたミラクル博士が「その若さと才能で歌わずにいられるものか」とそそのかす。悪魔の誘惑に打ち勝つべくアントニアは亡き母に助けを求めるが、そこに母の亡霊が現れ「アントニアよ、歌いなさい」と叫ぶ。アントニアは狂ったように歌いだして倒れ、ミラクル博士は消える。倒れた娘を見つけたクレスペルは嘆き、飛び込んできたホフマンを｢お前が殺したのだな」とナイフで刺そうとするが、ニクラウスに阻止される。ホフマンは医者を呼ぼうとするが、そこにミラクル博士が現れ、アントニアの死を宣告する。
第4幕 高級娼婦ジュリエッタ
第1場
ヴェネツィアの歓楽場の豪華な館で、高級娼婦ジュリエッタ（ソプラノ）とニクラウスが美しい有名な≪バルカロール(舟歌)≫を歌い、ホフマンも彼女に請われてアリア≪燃える欲望を持って≫を歌う。そこにジュリエッタの情夫シュレミール（バリトン）が来ていやみを言ので、ジュリエッタがとりなすが、彼女は情夫よりむしろ連れの魔術師ダペルトゥット（バリトン）の手に輝くダイヤに眼を奪われ、その場を収めて皆をカードに誘う。ニクラウスはホフマンに「もし悪魔に負けて愚かな愛に取り付かれたらすぐにここから連れ出す」と注意を促すが、ホフマンは、娼婦相手に本気になるはずがないと一笑に付す。魔術師ダペルトゥットは、以前シュレミールの影をジュリエッタに盗ませたように、ダイヤを使って彼女にホフマンを誘惑させることを決心する。ジュリエッタはダイヤに眼が眩（くら）み、ホフマンを誘惑して彼の影を盗むことを約束する。カードが始まり、ホフマンはカードに参加しないで考え込むジュリエッタに心を奪われる。愛を囁くホフマンをジュリエッタはつれなくあしらうが、情夫シュレミールが持っている彼女の鍵を奪って欲しいと頼む。そこにゴンドラがやって来て招待客の一部は去るが、ホフマンはとどまり、シュレミールにジュリエッタの鍵を渡すように要求する。命がある限り渡さないというシュレミールとホフマンは決闘を約束する。すかさずダペルトゥットが、剣を持たないホフマンに自分の剣を差し出す。
第2場
決闘の前、ジュリエッタはホフマンに、命が大切だから自分より先に逃げてくれるように懇願する。承諾しないホフマンに、ジュリエッタは「離れていても自分は貴方のもの」と訴え、彼は心を奪われ承諾する。ジュリエッタは心の支えとして、貴方の影を置いていって欲しいと頼み、ホフマンは驚くが、ジュリエッタの情熱に押し切られ陶酔のうちに承諾して気を失う。影を奪われたホフマンがダペルトゥットに笑われ呆然としているところに、彼の存在が見えないジュリエッタが、自分の誘惑の成功に笑いながら彼女の下男ピティキナッチョ（テノール）が差し出すワインを飲む。しかし、その瞬間苦悶に顔をゆがめて倒れ、ホフマンの腕の中で息を引き取る。ダペルトゥットとピティキナッチョの高笑いが響く。
第5幕 エピローグ オペラ歌手ステラ
再び冒頭のルーテルおやじの酒場。3つの恋物語を語り終えたホフマンは、自棄（やけ）になって学生たちと酒をあおって騒ぐ。そこにオペラの舞台が終わったオペラ歌手ステラ（ソプラノ）がやってくるが、正体もなく飲んだホフマンには、彼女がオランピア、アントニアそしてジュリエッタに見える。ニクラウスはステラが来るのが遅かったと笑い、リンドルフがステラの腕を取って、再び学生たちと騒ぎ出すホフマンを尻目に二人で退場する。残されたホフマンは、すべてを失った惨めさにそのまま死を望み倒れる。
暗転した舞台に、輝かしいミューズが現れ、ホフマンを詩人として蘇らせて幕となる。
