♪ Matsukaze「松風」
作曲:細川俊夫(1955~)
内容:世阿弥の有名な夢幻能「松風」を基に、Hannah Dübgenが台本を書いたオペラ。2004年の「班女」に続く、日本を代表する作曲家細川俊夫の第3作目のオペラで、2011年5月にモネ劇場で世界初演された。過去が浸透した時間を、自然界の音からの音楽と身体表現によって表現され、死者と生者が共存する時間が自然の風景の中にあることを確信させる作品。ドイツ語
あらすじ
諸国修行の旅をする僧(バス)が須磨の浦に到着する。浜辺にある松には「松風」「村雨」と名前が彫られてあり、僧はその謂れ (いわれ)を通りかかった漁師(バリトン)に尋ねる。漁師は「それは数百年前に、歌人在原行平(ありわらのゆきひら)が須磨に蟄居(ちっきょ)していた時に、契りを交わした、塩を採って暮らす海女 (あま)の姉妹、松風と村雨の墓標である」と教え、さらに「行平は、姉妹との再会を誓いながら京で病死し、姉妹は深い哀しみのうちに没した」と言う。僧は 姉妹のためにお経をあげて霊を弔った後、漁師に別れを告げ、一軒の塩屋の前で眠り込む。月夜の浜に、潮くみを終えた松風(ソプラノ)と村雨(メゾソプラノ)が現れ、行平を想い哀しみを歌い家路につく。僧は、塩屋に戻った姉妹に、一夜の宿を請い、僧が、在原行平の和歌を詠み「松風、村雨の墓標の松を弔ったと」話すと、二人は泣き出し「自分たちは行平に寵愛を受けたその松風、村雨の亡霊だ」と打ち明け、行平の死で終わった恋の思い出を語る。松風は、行平の形見の狩衣 (かりぎぬ)と烏帽子 (えぼし)をまとって狂ったように舞い、姉をなだめる村雨も烏帽子と取って共に舞う。二人は松の木に行平の幻影を見て駆け寄り、陶酔状態で舞い続け、姉妹の心は風と雨の音に変ってゆく。姉妹は僧に供養を頼んで消えてゆき、夜明けに僧が目覚めると、そこには塩屋は無く、ただ松を渡る風ばかりで幕となる。