♪Alcina 「アルチーナ」
作曲:G. F. Händel(ヘンデル1685~1759)
内容:イタリア人R. Ariosto著の叙事詩「狂えるオルランド」に登場する魔女が題材だが、台本作家は不明。1735年に作曲されたもので、ヘンデルのオペラの中でも、魔法オペラの華やかな傑作。 3幕 イタリア語
あらすじ
第1幕
貴婦人ブラダマンテ(アルト)は、恋人の騎士ルッジェーロが不意に失踪してしまったので、弟リッチャルドの姿に男装し、家庭教師のメリッソ(バリトン)と一緒に恋人を探す旅に出て、海が荒れたためにある島に上陸する。その島は男を誘惑しては動物に変えてしまう魔女アルチーナの島で、実は、騎士ルッジェーロはブラダマンテという婚約者がありながら、アルチーナの魔力に捕らわれ、その魔法の島で愛の生活に溺れている。
ブラダマンテとメリッソを出迎えたアルチーナの妹モルガーナ(ソプラノ)も、やはり魔女だが、凛々しいリッチャルドことブラダマンテに一目惚れしてしまう。雷鳴がとどろき魔女アルチーナの宮殿が現れ、人々が快楽の素晴らしさを合唱している。ブラダマンテはこの宮殿に恋人のルッジェーロがいることを直ぐに悟るが、メリッソは彼女に変装がばれないようにと注意する。メリッソはアルチーナ(ソプラノ)に海が穏やかになるまでここに逗留させて欲しいと頼み、アルチーナはこれを快く認めて、恋人のルッジェーロ(メゾソプラノ)に、二人に宮殿や森などを案内するように言い、出て行く。ブラダマンテは、ルッジェーロに 自分は貴方の恋人のブラダマンテの弟リッチャルドだと名乗り、早く本当の恋人ブラダマンテの元に戻りなさいと言うが、アルチーナの妖術の虜になっているルッジェーロはそんな話は聞きたくないと拒絶して去る。そこに、昔船が難破してこの島にたどり着いたオベルト(ソプラノ)が現れ「父のアストルフォと一緒にこの国に逗留させてもらっていたが、最近突然、父が姿を消してしまったので探している」と言うので、ブラダマンテはきっとアストルフォはアルチーナの愛欲の虜になって動物に変えられてしまったのではと呟く。オベルトと入れ替わりに、アルチーナの軍総司令官でモルガーナの恋人オロンテ(テノール)が怒って現れ、剣を抜いてブラダマンテを殺してやると息巻く。ブラダマンテが何が何だか分からないでいるとモルガーナが駆けつけて彼女を守るので、彼女はモルガーナが男装した自分に恋してしまったために、嫉妬したオロンテが怒っていることに気付く。
昔は勇士として名を馳せたルッジェーロも、今はすっかりアルチーナの妖術にかかって《愛の勝利のみを望む》と歌っていると、モルガーナと喧嘩別れをしたオロンテが現れて、ルッジェーロに「アルチーナは今はリッチャルドに夢中になっているので、きっとお前も動物に変えられて捨てられてしまうぞ」と吹っ掛ける。アルチーナが現れるので、ルッジェーロは、今聞いたリッチャルドへの嫉妬を隠さず詰め寄るが、アルチーナは《私はもとのままよ》と歌って立ち去る。ブラダマンテが現れるので、彼女をリッチャルドと信じ込んでいるルッジェーロはこの恋敵に憎しみをぶつける。我慢できなくなった彼女は、自分は本当はブラダマンテであると打ち明けてしまうので、慌ててメリッソが駆けつけて、ルッジェーロに「この人は逆上してわけの分からないことを言っているのです」と取り繕う。ルッジェーロはブラダマンテに、君がどれほどアルチーナを愛しても彼女は自分のものだと言って立ち去る。モルガーナが現れ、ブラダマンテに「ルッジェーロが貴方に嫉妬するのでアルチーナは貴方を動物に変えることにした」と告げて、早く逃げましょうと言って二人は逃げていく。
アルチーナが戻ってきて、ルッジェーロの嫉妬に悩み《前のように私をみつめて》を歌う。
第2幕
アルチーナのことで心が一杯のルッジェーロの元に、彼の昔の家庭教師アトランテに変装したメリッソが現れる。メリッソはルッジェーロに、昔教えた騎士の誇りを思い出させながら、彼の指にアルチーナの魔術を解く指輪をはめてやる。するとルッジェーロにかけられた魔術は一瞬にして解けて、ブラダマンテへの愛も蘇る。メリッソは、ルッジェーロに「狩りに出かけると偽って、自分の武具を全て身につけてこの国から逃げるように」と忠告する。メリッソが立ち去るとブラダマンテが現れるので、ルッジェーロは「アルチーナの魔術は解けたので、自分は正気に戻った。ここに君のお姉さんがいてくれたらならば」と言うので、ブラダマンテは、私がその本人ですと打ち明ける。しかし、ルッジェーロは、アルチーナの魔術でまた自分を騙そうとしているのだろうと、ブラダマンテの言葉を信じない。呆れたブラダマンテは《仕返ししてやりたいわ》を歌い立ち去る。ルッジェーロは混乱して、何が真実なのか分からないと思い悩む。
アルチーナが、ルッジェーロが嫉妬するリッチャルドを動物の姿に変えようと魔女チルチェの像に祈りを捧げていると、モルガーナが現れて、魔法をかけるのを待ってと止める。ルッジェーロもやって来て、愛の証明はこれで十分ですと言う。モルガーナは、リッチャルドは別の人を愛しているのだから心配はありませんと言って立ち去る。ルッジェーロはアルチーナに「最近身体がなまってしまったので武器を持って狩りに出かけたい」と言い、心配するアルチーナに向かって《私の美しい宝よ》を心ではブラマンテを思いながら歌い立ち去る。オベルトがアルチーナの元に現れ、「父を探してください」と頼むので、アルチーナは「近いうちに貴方の父親に会えるように計らいましょう」と答える。オベルトは喜んで《希望と恐れの間で》を歌い立ち去る。軍総司令官オロンテが駆け込んできて、ルッジェーロが逃げようとしていると告げる。それを聞いたアルチーナは、彼が武装して狩りに出かけたいと言った理由を悟り、《ああ、私の心よ》を歌って恋人の裏切りを嘆き立ち去る。ルッジェーロとブラダマンテが現れ、ルッジェーロは自分の過ちの許しをブラダマンテに乞い、二人は抱きあう。そこにモルガーナが現れて、ブラダマンテがリッチャルドではなく女であることを知って、ルッジェーロの裏切りを見て怒り、「アルチーナの復讐を恐れよ」と言い残して立ち去る。ルッジェーロは 有名な《緑の牧場よ》を歌い、魔法が解ければ全てがその美しい姿を変えるだろうと言う。
アルチーナは冥界の霊たちを頼り、彼を逃がさないでと祈る。しかし、ルッジェーロに真実の恋をしてしまったアルチーナには、もはや魔力が無く絶望する。
第3幕
モルガーナはオロンテに《私の苦しみを信じて》を歌って許しを乞い立ち去る。それを聞いたオロンテは、彼女は一度は自分を裏切ったけれどやはり自分の宝だと言い立ち去る。ルッジェーロが現れるが、運悪くアルチーナと鉢合わせしてしまう。引き止めても無駄と知っているアルチーナは、裏切り者よ行きなさいと《でも足枷(あしかせ)をはめられて戻ってきた時には》を激しく歌い、復讐を覚悟しておきなさいと言って去る。メリッソがブラダマンテと共に現れ、島全体が武装した軍隊と怪物たちに取り囲まれているとルッジェーロに報告するので、彼はそれらを皆倒してやると意気込んで戦いに出ていく。メリッソは入り江に用意した船で二人を待っていると言い、ブラダマンテは、ルッジェーロを追って行く。軍総司令官オロンテは、アルチーナに軍隊も怪物もルッジェーロに敗れたことを報告し、彼女は嘆き悲しんで《私には涙が残されている》を歌う。
宮殿内の魔法の壺のある神秘の部屋にオベルトが現れ、アルチーナに「約束通り父親に会わせてください」と願うので、アルチーナは檻から一頭のライオンを出す。するとライオンは襲わずにオベルトに身を寄せるので、彼はこのライオンこそが変身させられた自分の父親であることに気付き、アルチーナを非難して立ち去り、ライオンもその間に檻に戻っていく。そこに、勝利したルッジェーロがブラダマンテとともに乗り込んでくる。アルチーナは二人に慈悲を乞うが、ブラダマンテが、アルチーナの言葉に惑わされないようにと注意を促す。ルッジェーロが、この島にかけられたすべての魔法を解くために魔法の壺を壊そうとするが、アルチーナは「それは自分自身でやります」とさえぎる。ブラダマンテが、「それならば私が」と壺に近寄ろうとすると、モルガーナが現れて「貴方の命を助けたことに免じてこの壺を壊すのは止めて」と訴える。様子を見ていたメリッソは、早く壺を壊すようにとルッジェーロを急かし、遂に壺は壊される。するとアルチーナとモルガーナは消えうせ、宮殿は崩れ去り、それまで岩や動物に変えられていた人たちが元の姿に戻る。人々は喜び、歓喜の合唱で幕となる。