♪L’Opera Seria「オペラ・セリア」
作曲:Florian Leopold Gassmann(ガスマン1729~1774)
内容:ボヘミア生まれの作曲家ガスマンは、皇帝ヨーゼフ2世のウィーン宮廷楽長を務めた(サリエリの前任)、当時グルックと並ぶオペラ作曲家で、モーツァルト(ガスマンは27歳年長)も高く評価した。台本はR. de’Calzabigi(1714~1795)で、オペラの中で、もう1つのオペラ座がオペラを制作し、昔も今も変わらないオペラ劇場や舞台裏のあり方を、ドタバタと愉快に風刺する楽しいオペラ。 3幕 イタリア語
あらすじ
第1幕
幕が上がるとそこは、とあるオペラ劇場。そこでは公演初日に向けて、不屈の英雄と恋に悩むヒロインの、古いスタイルの壮大なオペラ「英雄悲劇オランゼブ王」の準備が始まっている。台本作者デリーリオ(バス)と作曲家ソスピーロ(テノール)の2人は意気揚々として、お互いに大げさにお世辞を言い合い、彼らの新作オペラが前もって大成功で、センセーションを引き起こし、大勝利をもって世界中を回るだろうと主張する。しかし、劇場支配人ファイット(バス)は、台本はくどくどと冗漫で、無意味なセリフだらけだし、音楽は無意味で歌手に過重な装飾音ばかりでと、2人を批判して満足していない。ファイットは、オペラの大部分を線を引いて消去し、楽譜のかなりのページを引き破り、デリーリオとソスピーロの2人を激怒させる。
プリマドンナのストナトリーヤ(ソプラノ)がオペラ座に入って来るが、誰も出迎えないので、この地方のオペラ座は、自分の標準に合わないのではと怪しむ。ファイットは彼女を落ち着かせようとして、作曲家ソスピーロと、彼の弟子で気取った若い初登場の歌手ポルポリーナ(ソプラノ)を紹介する。2人のソプラノ歌手は、早速に言葉で応酬を始め、ストナトリーヤは「貴女には才能のかけらもなさそうだから、歌手人生なんてお辞めなさい」と言う。ソスピーロは、ポルポリーナを慰めるが、彼女は「私はまだ私のための華やかな新アリアをもらっていない」と彼を非難する。躍起になったソスピーロは、もう1度彼女に対する愛を告白して、その新しいアリアの作曲を終えるために出て行く。ポルポリーナは、自分に恋した男たちを自分のために利用することをやましくは思わないと、明言する。この新作オペラのもう1人のスター歌手スモルフィオーザ(ソプラノ)が、汗とタバコの蒸気で気絶しそうになって、仕立屋から飛び込んで来る。ポルポリーナは医者を呼ぼうとするが、そこへ、新作オペラの第1テノール歌手リトルネッロ(テノール)が現れ、スモルフィオーザを介抱する。彼女は「私はとても繊細なので、そのもろさを配慮してね」と、彼との抱擁中に訴える。
ダンスマネージャーのパッサリオ別名ステッフレッグス(バリトン)は、劇場支配人ファイットに、彼がシュツットガルトで見つけてきたバレリーナ―を、契約させるように企てている。パッサリオが、新しいバレリーナ―がいかに見事にステージで舞うかを巧妙に語るので、ファイットは新作オペラにバレリーナ―を雇うことにする。しかしファイットは、来るべき公演の初日について心配で悩み、デリーリオにアドヴァイスを求める。デリーリオは、オペラにいくつかの効果的なシーン、例えば、悲嘆にくれた女性付きの戦場シーンや、最後には彼女が服毒自殺するシーンを加えることを耳打ちする。そのアドヴァイスは、音楽が全く破壊的であるという事実にもかかわらず、オペラを救いうるとファイットは考え、デリーリオに感謝する。
出演者が集まって衣装の試着が始まると、リトルネッロは自分の兜の羽が短すぎるとか、ストナトリーヤは彼女の衣装が他の歌手に比べて良くないなど騒ぎ出す。そこへ、印刷されたてのプログラムが届き、騒ぎはもっと悪くなる。出演者たちは、自分らが無視されている上に、名誉や資格が尊重されていないと不満で、反乱を起こす一歩手前の状態になり、リトルネッロは、直ちにこの劇場と町から去ると脅かす。結局、ファイットが甘んじて屈辱を受け入れて、皆が満足できるように変更することを約束する。
第2幕
ファイットは、劇場支配人の人生を呪っている。彼はデリーリオとソスピーロを呼びつけて、オペラの大部分を変更すること、今あるアリアは取り除いて、歌手の気にいるものを作曲しなおすことを命じる。デリーリオとソスピーロは極度に憤慨し、まるで名もない無能者のように互いに非難し合う。まずデリーリオは、テノールのリトルネッロの新しいアリアを挿入する台本に換える処置をとる。が、熟練されていない歌手リトルネッロは、その頭に浮かんだ言葉を歌うのを好むタイプの歌手なので、これはオペラをさらに悪くする。ソスピーロの処置はそれよりも少し良くて、リトルネッロが以前ミラノで大成功を収めたアリアを歌うことに賛成なので、デリーリオの改められた台本にそのアリアを再利用することにする。
さてオーケストラ付きのリハーサルが始まるが、ソリストのうち2人の歌手がまだ現れないので、その歌手が登場しない3幕から始めることになる。最初はリトルネッロの歌う、そのバラバラに引き裂かれた心の情熱から解放されるために死ぬ覚悟ができていると告白する勇敢なアリア。その後は、リトルネッロとストナトリーヤの、熱い情熱で結び付いたにもかかわらず、別れなくてはならないというデュエット。それらは、その音楽が嫌でたまらないデリーリオはさておき、喜びに満ちているように見える。次は、男役で雇われたポルポリーナのラーナ将軍のアリアで、王の命令でいかにラーナ将軍が暗殺者になったかを語る。デリーリオは、その激しいコロラテューアのアラビア風の装飾と音の高い跳躍が、例えばマグロのダンスとイルカの跳躍のようで、オペラのイメージとラーナ将軍のエネルギーが生まれ変わったように感じる。それらは大笑いしないではいられないのだが、デリーリオは深く気分を害して、笑う人々を無知無学の人間だと言う。そしてストナトリーヤの偉大な服毒自殺のシーン。彼女は、世界が破壊と恐怖と激しい激怒に満ちていると表現した後、急いで手にしたインク壺から毒をぐいと飲みこむ。
ダンスマネージャーのパッサリオはダンスのリハーサルのために、舞台上に場所を要求するが、リトルネッロは、新曲のアリアを歌わなくてはと主張する。リトルネッロが、デリーリオがせっかく特別に彼のために工夫して書いた言葉の代わりに、全く以前のように彼の頭に浮かんだことを歌うので、デリーリオは苛立つ。
やっと4人のダンサーがリハーサルを許可され、ウォーミングアップや爪先旋回を始めると、歌手たちはダンサーたちの悪口を言い始め、プリマバレリーナ―とダンサーたちには、才能も品行方正さもないと認め合う。だんだんひどくなる悪口に、最後にダンサーたちは我慢できず、遂に歌手とダンサーの間で騒然としたけんかとなる。埃が舞い上がる中、少しでも出演者と新作オペラを救うために、ファイットは、火災報知器を鳴らす。その瞬間、全員が動きを止め、女たちはボンヤリし、一瞬の静けさが訪れるが、リトルネッロが「すべての出演者が連帯してその運命のために劇場支配人と戦う」とはったりをかける。
第3幕
新作オペラ「オランゼブ王」の初日、第1幕。指揮官ナセルカノ役のリトルネッロが、兵隊の万歳に迎えられて登場。その勝利の戦車には、インドの王女サエーブ役のスモルフィオーザが鎖で繋がれていて、彼女は密かに自分に鎖を付けたこの指揮官ナセルカノを想っている。指揮官ナセルカノは、モーヴェンピック氷河から灼熱のインダス川岸までの今回の遠征での兵隊や船の勇気を称賛する。インド王女サエーブは「自分は指揮官ナセルカノを恐れてはいないが、戦利品としてそのもとへ行く無慈悲なオランゼブ王には怯えている」と言う。そこへラーナ将軍役のポルポリーナが来て、指揮官ナセルカノを称えるが、彼の成功への嫉妬と羨望を隠し切れない。ラーナ将軍は、オランゼブ王の娘ロッサナーラ(ストナトリーヤ)が、ナセルカノを出迎えていると言う。この王の娘ロッサナーラも密かにナセルカノを想っていて、捕らわれたインド王女サエーブの無上の美しさを見た彼女の心は乱れる。サエーブはロッサナーラに、彼女の父オランゼブ王の慈悲を哀願するが、サエーブがナセルカノに恋していることを見てとったロッサナーラは それを拒否して出て行く。
ナセルカノ役のリトルネッロは、このオペラに問題が発生していることを知る。突然聴衆が騒々しくなり、ブーイングが沸き起こり、ただちに第1幕の幕が下される。かわいそうなダンスマネージャーは幕の前に出て、聴衆に「伝統的な素晴らしいバレーをお目にかけますので、どうぞ席を離れずお待ちください」と訴える。しかし幕が再び上がると そこは舞台ではなく、楽屋裏の女性歌手控室で、ソリストの母親3人が騒いでいる。デリーリオ、ダンスマネージャー、リトルネッロが 母親たちのおしゃべりと口論を盗み聞くために向かう。この3人の母親(全て男性歌手)、カヴェルナ(コントラテノール)、ブラグヘローラ(テノール)、ベファーナ(テノール)は、粗暴な言葉使いで、互いの娘たちをめいっぱい中傷する。騒動はどんどんひどくなり、ついには、この母親たちを女性歌手控室に鍵をかけて閉じ込める以外には方法がなくなる。
丁度この時、ソスピーロ、リトルネッロ、デリーリオの3人がなだれこんで来て、もっと悪い事態‐劇場支配人のファイットが、彼らを騙して公演の収入金とともに消えた‐を知らせる。収入金の分け前がすべて無くなってしまった出演者全員は、激怒のため物が言えず、どうしたらよいかと途方に暮れる。ソスピーロが立ち上がって「このオペラで国の各地を回ろう。どこかで気難しくない良い聴衆を見つけられる」と提案する。出演者全員‐歌手、ダンサー、オーケストラ団員、舞台演出家、メーキャップ、入場券売り子など‐は集まって、その名において連帯することを誓い合う。そして、彼らは 今もそして永遠に、世界中のオペラ劇場支配人の人生を厄介なものにしてやることを誓うとともに、オペラ制作にあたって本分を尽くすことを約束し、幕となる。
オペラ-それは、オペラ座の中よりも遠くない所で行われている人々の日常生活を洞察したもの-。