♪Skupoj Rytsar けちな騎士
作曲:S. Rachmaninov(ラフマニノフ1873~1943)
内容:ロシア人作曲家ラフマニノフは、ピアニストや指揮者としての多忙な活動の中で、ピアノ曲を中心にあらゆる分野においてロシアロマン派の作品を残した。現在オペラ作品は、「アレコ」1892年、「けちな騎士」と「フランチェスカ・ダ・レミニ」1904年の、3つのオペラが上演される。今回はその3作同時公演で、それぞれは1時間程の短いオペラで、ロシアの哀愁をおびた暗いものだが、その中に現れる甘美なメロディはとても美しい。
3つの1幕のオペラ。ロシア語
けちな騎士
プーシキンの同名の小悲劇(1824年)の1つに、作曲者自身が台本を書いた。登場人物は男性歌手5人のみというもので、作曲者が新婚旅行で渡欧した折にワーグナーのオペラを観劇し、音楽にはその影響が伺える。
あらすじ
第1場
見かけは質素だが、守銭奴として悪名高い男爵を父に持つ若者アルベルト(テノール)が、「あのケチ親父め、少しは貧しい息子を助けてくれたっていいだろうに」と 自分のみじめな貧乏生活を嘆いている。訪れた金貸し(テノール)に、追加の借金を頼むが、「男爵家の子息という信用だけではこれ以上の融資は出来ない」と断られ、その上「もし財産相続のために、年老いた父親の男爵を毒殺するなら、知り合いの薬剤師を紹介する」と、とんでもない悪だくみを持ちかけられる。アルベルトは憤慨して、残忍な高利貸しを追い払い、思案の末、公爵に口添えをしてもらい、父親に資金援助を頼もうと決心する。
第2場
男爵(バス)が、彼の宝物が隠された暗い地下室で、それまでに貯め込んだ莫大な財宝を眺めながら、一人ほくそ笑んでいる。自分が どれほどの思いをしてこれだけの財産を作ったか、どれほどの人を苦しめながらこれだけの宝を得てきたか、男爵は一人で延々と語り続ける。そして自分が死んだ後も、誰にも奪われないように、この宝箱の上に座って財宝を守り続けたいと独白する。ラフマニノフの暗く重厚な音楽が、男爵の異様な執念を不気味に描き出す。
第3場
アルベルトは、公爵(バリトン)に 父への助言を頼みにやって来る。公爵は男爵を呼び、二人の会話が聞こえる隣室にアルベルトを隠し、息子のアルベルトが、きちんとした紳士としての身だしなみを整えられるように金銭援助するよう男爵に助言する。しかし男爵は金を守ること以外眼中になく、自分の息子を繰り返し誹謗(ひぼう)し、挙句の果てに、息子は財産を略奪しようと、父親の死を待ち受けているのだと言いつのる。これを聞いていたアルベルトは、我慢しきれず「お父さんは嘘つきだ!」と叫び隣室から飛び出す。激怒した男爵は、息子に向かって手袋を投げつけて決闘を申し込み、興奮したアルベルトも挑戦を受けるべくその手袋を拾ってしまう。慌てた公爵が、アルベルトを部屋の外に連れ出してなだめ、部屋に戻って来ると、激情した男爵が床に倒れ、喘(あえ)ぎ苦しんでいる。公爵が 悪夢のような男爵の臨終を見守る中、彼が死ぬ間際に口にした言葉は、祈りでも懺悔(ざんげ)でもなく「わしの鍵はどこだ。宝箱の鍵・・・」。最後の最後まで自分の財宝に執着し続けた男爵の姿に、公爵は唖然として幕となる。