♪Un Ballo in Maschera 「仮面舞踏会」
作曲:G. Verdi(ヴェルディ1813~1901)
内容:スウェーデン国王グスタフ3世が1792年に仮面舞踏会で暗殺された実話を、フランス人劇作家E. スクリーブが劇にし、A. ソンマが台本を書いて作曲された。しかし、検閲で不許可になり、舞台を英国支配下のアメリカ、ボストンに変更して1859年にようやくローマで初演されて大成功を収めた壮大なスケールの名作。
今回の公演は、登場人物名を初版に戻し、リカルドはグスタフ3世、レナートはアンカルストローム伯爵、政敵サミュエルはリッビング伯爵となり、舞台はイギリスの作家G.オーウェルの有名な小説「1984年」の偽善によって失敗した全体主義社会に設定している。
3幕 イタリア語
あらすじ
第1幕 第1場
グスタフ3世を賞賛する人々と、それにまぎれた反逆者たちの陰謀の合唱で幕が上がる。そこにグスタフ3世(テノール)が現われ、小姓オスカル(ソプラノ)が差し出す今度の仮面舞踏会の招待客名簿から、自分の忠実な部下アンカルストローム伯爵の妻アメリアの名を見つけ、密かに彼女に想いを寄せる彼は「再びあの人に会える」と歌う。人々が退出して1人になったグスタフ3世は、物思いにふけりながら「アメリア」と独白するが、その時アメリアの夫アンカルストローム伯爵(バリトン)が入ってきて狼狽する。しかしアンカルストロームはそれには気がつかず、グスタフ3世の周りに反逆の動きがあり、暗殺団がいることを案じて「あなたの喜びのためには」と、グスタフ3世を励まし、もし万が一のことがあったら…と注意を促す。
そこへ判事がやってきて、郊外で人を惑わせる女占い師ウルリカの追放を求めるが、ウルリカを知る小姓オスカルは「星を見上げれば」と歌って、ウルリカの予言は素晴らしいと弁護する。ウルリカに関心を抱いたグスタフ3世は、心配するアンカルストロームを押し切り、人々を伴って仮装してウルリカの所へ行こうと提案する。これを聞いた反逆者たちは、グスタフ3世を暗殺するチャンスと喜ぶ。
第2場
女占い師ウルリカの家では大勢が集まり、ウルリカ(アルト)は「地獄の王よ」と不気味な呪文を唱えながら、占いをしている。そこへ漁師に変装したグスタフ3世たちがやってくる。占いが始まり、グスタフ3世に仕える水夫クリスティアーノ(ソプラノ)が、手相を見てくれと頼み、ウルリカは「すぐに金と位が手に入る」と予言する。これを聞いたグスタフ3世は、クリスティアーノを士官に任命する辞令を書いて、シルヴァーノのポケットに入れる。それを見つけたクリスティアーノは大喜び、人々はウルリカの占いの的中に驚く。
そこへアメリアの召使いが現れ「内密に占っていただきたいために主人が外で待っている」というので、ウルリカは人々を立ち去らせるが、グスタフ3世はそっと物陰に身を隠す。そこへアメリア(ソプラノ)が現われ「夫以外の男性を愛してしまった。不倫の恋を忘れる薬が欲しい」と言う。ウルリカは「郊外の死刑台の下に生える薬草を深夜摘め」と言う。この一部始終を物陰で聞いていたグスタフ3世は「アメリアが自分を愛している! 私も死刑台へ行こう」と決心する。再び人々が戻ると、グスタフ3世は舟歌「告げておくれ…」を歌い、ウルリカに占いを頼むが、ウルリカは彼の手相を見て「あなたは親しい者の手にかかって死ぬ」と予言する。さらに「今から最初に握手する者が加害者」と予言するので、周囲の人々は握手を求めるグスタフ3世に応じない。紛れ込んでいた暗殺者たちもウルリカの占い結果に驚く。そこへグスタフ3世の身を案じるアンカルストロームが現われ、何も知らずに彼と握手する。グスタフ3世は、私が忠実なアンカルストロームに殺されるはずがないと一笑し、グスタフ3世が来ていると気づいた民衆が彼を称えて合唱するが、ウルリカだけはこの中に反逆者がいると見破る。
第2幕
郊外の死刑場にヴェールで顔を隠したアメリアが現われ、アリア「恐ろしいこの野原」を歌い、あの人を忘れてしまえば自分には一体何が残るのかと悩みながら、深夜の鐘が鳴る中、神に深い祈りを捧げる。そこへグスタフ3世が姿を現し、驚くアメリアに激しく愛を告白する。アメリアははじめは「私はあなたの信頼する部下の妻です」と冷たく言うが、やがてこらえきれなくなり、彼を愛していると打ち明ける。グスタフ3世が「ああ、この胸のときめき」と長い間胸に秘めていた恋を歌い、愛の二重唱が燃え上がったところへ、アメリアの夫アンカルストロームが、グスタフ3世の身を案じて現れる。驚くアメリアはベールで顔を隠し、アンカルストロームは「暗殺者たちがあなたを狙っているので、私のマントと取り替えて逃げて下さい」と勧める。グスタフ3世は迷うが、アメリアの強い勧めもあってその通りにし、アンカルストロームに「この御婦人を誰か確かめずに、安全な所までお送りするように」と頼んで姿を消す。
そこへ、リッビング伯爵(バス)やホーン伯爵(バス)ら反逆者たちがやってくるが、グスタフ3世がすでに逃げたことを知った彼らは、腹いせに「グスタフ3世の愛人」の顔を見ようとしてアンカルストロームと小競り合いになる。それを止めようと仲裁に入ったアメリアだったが、被っていたヴェールが落ちてしまう。アンカルストロームは妻アメリアの裏切りに愕然となり、反逆者たちはアンカルストロームを嘲笑(ちょうしょう)する。アンカルストロームは「これが今までの忠誠への返礼か」と怒り狂ってグスタフ3世に復讐を誓い、反逆者たちに同調することを決心して、立ち去ろうとする彼らに明朝屋敷に来るよう言う。
第3幕 第1場
屋敷に戻ったアンカルストロームは妻の身の潔白の主張には耳を貸さず、冷たく死を命じる。死を覚悟をするアメリアは、アリア「私の最後の願い」で子どもとの最後の別れを求める。アンカルストロームはそれを受け入れ、アメリアが退出すると、グスタフ3世も肖像を見ながら、アリア「おまえであったか、彼女の心を汚したのは」を歌う。そこに反逆者一派のリッビングとホーンが訪れ、アンカルストロームは この2人のグスタフ3世暗殺計画に加わると言い、誰が暗殺するかをくじ引きで選ぶことにして、この3人の名前を書いたカードを壷に入れる。そこへ、オスカルがグスタフ3世の使いとして今晩の仮面舞踏会の招待状を持って来たことを告げるためにアメリアが来るので、彼女にそのくじを引かせる。彼女が引いたカードは夫のアンカルストローム。アメリアは、今晩の仮面舞踏会にグスタフ3世の暗殺があることを直感するが、それをどうやってグスタフ3世に知らせるべきか迷う。
第2場
アメリアとのことが露見したことを知らないグスタフ3世は、やはりアメリアとの恋は諦めようと決心し、アンカルストロームとアメリアを本国に帰す辞令に署名し、アリア「永久に君を失えば」を歌う。そこへオスカルが、見知らぬ女性からと手紙を差し出す。それはアメリアが書いた「今晩の仮面舞踏会にグスタフ3世暗殺の計画がある」というものだった。しかし、逃げることを嫌ったリッカルドは、それでも舞踏会に出ることをオスカルに告げ、「ああ、もう一度だけアメリアに会える」と歌う。
第3場
華やかな仮面舞踏会の会場に暗殺者3人組が現れる。アンカルストロームは、オスカルにグスタフ3世の扮装を尋ねるが、勘のいいオスカルはうまくはぐらかす。グスタフ3世が会場に現れ、アメリアが近寄り、危険だから立ち去るように必死に嘆願する。グスタフ3世はアメリアに本国に帰るよう言い、別れを告げるが、そこへアンカルストロームが近寄って彼を刺し、倒れるグスタフ3世。仮面舞踏会の会場は騒然となるが、グスタフ3世は騒ぐ人々制して、苦しい息の中から、アンカルストロームに「アメリアは潔白だ」と告げて、懐から本国への帰国と栄転を記した辞令を出して渡す。呆然とするアンカルストローム。グスタフ3世は この暗殺の関係者の特赦を言い残し、民衆への別れの言葉を最後に静かに息を引き取り幕となる。