♪ Il Prigioniero 「囚われ人」
作曲:Luigi Dallapiccola(ダッラピッコラ1904~1975)
内容:フランス人作家V. de L’Isle-Adamの短編小説「希望による拷問」と、ベルギー人作家C. De Costerの「オイレンシュピーゲルとラム・ゲザクの伝説」を基に、作曲者が台本を書き第2次世界大戦中に作曲を始めた。スペインのフィリペ王の宗教弾劾が題材だが、ドイツ・ナチスをフィリペ王、イタリア・ファシストを宗教裁判長に見立てていることは明らかで、それに対する囚人に12音技法を用いて劇的な効果を生んでいる。
プロローグと1幕 イタリア語 45分
あらすじ
プロローグ
スペイン宗教裁判長の命令で投獄された囚人のところに、その母親(ソプラノ)が面会に来て、牢獄の入口で待たされている。彼女は、モノローグで毎夜見る夢をについて歌う。その夢とは、長くて暗い洞窟の中を通っていくと、ハゲワシの子孫で残忍な独裁者フェリペ王が鎮座していて「神は天井の主であり、我々は地上の主である」と呟き、次第にその姿は「死」そのものに変貌してゆくというものである。母親は心配と恐怖のあまり「私の息子よ」と叫ぶ。
-間奏的合唱「神よ慈しみ給え」
本幕
第1景 独房の囚人(バリトン)の横に母親がいるが、彼女は「息子よ」と呼びかける他に言うべき言葉がない。囚人は「いつもの看守が『兄弟よ』と猫なで声で呼びかけるのがたまらなく恐ろしく、毎夜神に祈っているのだが」と絶望する。思わず、彼を子どもの時の様に抱きしめる母親。その時看守が来る気配がして面会時間が終わり、「これが最後の別れなの?」と言い残し 母親は去ってゆく。
第2景 入ってきたいつもの看守(テノール)は、囚人に妙になれなれしく「兄弟よ」と呼びかけ、フランドルでは再び革命の気運が盛り上がり、圧政を受けた人々がいたるところで宗教裁判長とフィリペ王の独裁に対して反旗を翻しているという情報を聞かせて囚人を元気つける。希望を与えてくれたことを感謝する囚人に「お前の望む自由は近いと」言い残して、看守はわざと扉の鍵をかけずに去ってゆく。壁と扉の隙間から看守の持つランプを見た囚人は、希望に燃えて扉を押して独房を出る。
-交響的間奏曲
第3景 母親が語ったと同じ長くて暗い洞窟のような長い廊下に出た囚人は、恐ろしさに神に祈る。修道士が拷問の道具を持って足早に通り、身を隠した囚人はぞっとする。2人の司祭(テノールとバリトン)が現れ、1人が人の気配を察知するが、もう1人が「囚人たちは良く眠っている。朝になればさらに永遠の眠りにつける」と言い、囚人たちに最後の聖体拝受を与えに牢獄へと去ってゆく。囚人がやっと廊下を抜けて戸口を探し出した時、鐘の音が聞こえてくる。彼は「これはゲントの鐘、フィリペ王の独裁もあとわずかで終わるのだ」と、外へ出る。
-間奏的合唱
第4景 大きな西洋杉のある庭に出た囚人は、聞こえてきた神を讃える合唱に恍惚となり、全人類を抱擁するかのように西洋杉を抱きかかえる。その囚人を、宗教裁判長がそっと抱きしめ、例の猫なで声で「兄弟よ」と呼びかける。例の看守は、実は宗教裁判長だったのだ。囚人は、自由と言う名の希望を話して絶望に突き落とすことが彼の最後の拷問だったのかと自嘲する。宗教裁判長に促されて、火刑台に向かう囚人は「これが自由なのか」と自問して、幕となる。