Skip to content

♪ Z Mrtvého Domu「死の家から」

by hidepost, le 3 sept 2018

作曲:Leoš Janáček(ヤナーチェク1854~1928)

内容:ロシアの作家ドストエフスキーはオムスクの監獄で4年間囚人として過ごし、自身の実質上の獄中体験記である小説「死の家の記録」(1862年)を書いた。それを基に、作曲者自らが台本を書いたヤナーチェク最後のオペラ。19世紀半ばのシベリアの収容所を舞台に、音楽はその過酷な現実を表現し、厳しい環境と貧困によってやむなく犯罪に手を染めてしまった囚人たちをつぶさに描写した人間の苦悩へのはかりしれない同情に満ちている作品。
3幕 チェコ語

あらすじ:

第1幕 シベリアの監獄の朝、囚人たちが監房から出てきて顔を洗っている。大男の囚人(テノール)と小男の囚人(バス)が口喧嘩を始め、監獄内ではルカと偽名を使っているフィルカ(テノール)が止めに入る。そこへ衛兵が新入りの囚人アレクサンドル・ゴリャンチコフ(バリトン)を連行し、監獄の司令官(バス)は、政治犯だと答えるアレクサンドルのプライドを保った態度が癪(しゃく)に障り、彼に私有品の没収と鞭打ち刑を命じて退場する。衛兵に連れて行かれたアレクサンドルの鞭打ち刑のうめき声が、裏から聞こえてくる。
大男の囚人が羽の折れた鷲(わし)を捕えてきて、囚人たちは、鷲を「森の皇帝」だと自由への思いを託して放してやろうとするが、鷲は飛ばない。衛兵が戻ってきて、囚人たちは追い立てられるようにそれぞれの作業に向かう。靴を縫う部署で働くスクラトフ(テノール)は、いきなり俗謡を歌い始め、側にいるルカ(本名フィルカ)に「自分と一緒にここに来てくれて嬉しかったよ」と言い、また狂ったように歌い踊る。ルカは、若い囚人アリエイヤ(テノール)に縫い糸を頼み、自分がこの監獄へ来た経緯を語り始める。ルカは、軍隊にいた時にささいなことでウクライナ人たちと獄舎に入れられ、監守長の少佐が「俺は神であり皇帝だ」と公言して威張り散らすので、ウクライナ人から借りたナイフで刺殺した。しかし結局彼はウクライナ人たちに裏切られ,捕まって拷問を受け、このシベリア監獄に移されたのだった。ルカが話し終わると、鞭打ち刑を受けたアレクサンドルがよろよろと戻ってきて倒れこむ。

第2幕 1年後、新入りだったアレクサンドルもようやくレンガ積みの仕事に慣れてきて、ダッタン人の若い囚人アリエイヤを可愛がり、読み書きを教えてやることにする。復活祭の鐘が響き、炊事番が「今日は祭日で作業は休みで芝居が始まるぞ」と叫んで駆けて行く。司令官、衛兵が司祭や訪問客とともにやって来て、司祭が皆を祝福した後、彼らは退場する。囚人たちは食卓につき、スクラトフが自分が投獄された経緯を物語る。[自分はルイザというドイツ人の娘に恋をし、結婚するつもりであったが、ある日突然彼女が逢引に来なくなった。ルイザは金持ちの親戚の男と結婚することになってしまったのだが、俺がどんな相手か見に行くと醜い初老の男で、怒り出した男をかっとなって撃ち殺してしまった。]
役者は全て囚人たちによる演芸会が始まり、最初の芝居であるドン・ファンの地獄落ちの話「ケドリルとドン・ファン」が始まる。≪ケドリルが、ドン・ファンに抵抗するエルヴィラを連れてくる。ドン・ファンは、彼女を救いに来た騎士を決闘の末に殺し、エルヴィラは逃げ出す。ケドリルが醜い靴直しの女房を連れてきて、彼女がドン・ファンを誘惑するが,彼は彼女を拒絶して追い払う。今度は司祭の女房を連れて来て、ドン・ファンに気に入られるが、悪魔が出てきてドン・ファンを地獄に引きずり込む。今度はケドリルが司祭の女房と食事を始めるが、また悪魔がケドリルを捕えてしまう≫
囚人たちの大笑いに続き、次はパントマイム「美しい粉屋の女房」が上演される。≪粉屋は女房に浮気をするなと言い残して出かけるが、彼女を狙う男たちが次々とやってくる。1人目は隣人、2人目は書記、3人目はドン・ファンである。彼女は、男が来るたびに、一緒にいた男を部屋に隠すが、やがて亭主が帰って来て彼らを見つける。変装を取ったドン・ファンを見て亭主は腰を抜かし、ドン・ファンは女房と一緒に踊る≫
囚人たちは、支離滅裂な芝居に喝采して獄舎に帰り始め、若い囚人は、密かに入ってきた売春婦に「兵隊とは付き合うな」と言い、彼女は余計なお世話と取り合わない。アレクサンドルは自前の金で、アリエイヤと茶を飲み、それを妬んだ小男の囚人が湯沸かしを投げつけてアリエイヤが怪我をする。囚人たちが騒ぎ、衛兵が小男の囚人を捕える。

第3幕 アレクサンドルは、監獄病院の病室で高熱で寝ているアリエイヤを見舞い、アリエイヤは、読み書きを教わったので聖書が読めると話す。同じ病室には重病で死にかけているルカや、スクラトフがいるが、ルカは茶を運んできたチェクノフ(バリトン)と口喧嘩して激しく咳込む。苦しむルカを見てシャプキン(テノール)が、お前の苦しみなんてと、身の上話を始める。[俺が仲間と一緒に窃盗で捕まった時、担当の裁判官が以前耳の突き出た書記に金を騙し取られた恨みから、同じように耳の突き出た俺だけに目をつけ、耳を千切れる程引っ張って無理やり供述調書を取り、ここに来ることになったのだ] そう言うシャプキンはベッドの上で狂ったように踊りだし、スクラトフはうなされて「ルイザ、ルイザ」と呻く。すると今度はシシュコフ(バリトン)が、自分の過去を話し始める。[俺の村の富豪の農場主の娘は、フィルカ・モロゾフという悪党と付き合っていて、そのフィルカの父親は、娘の父親の農場の共同出資人であった。フィルカは父親が死ぬと、その娘の父親に親の出資金を返せと言い、農場主は金を返したが、悪党フィルカは「娘とはもう寝たから嫁にはもらわない」と言って姿を消した。おかげで娘は皆から汚れた娘と思われ、農場主は娘をひどく殴ったが、結局、農場主は持参金をつけて娘を俺にくれるという話を持って来て、俺は彼女と結婚した。しかし彼女は処女で、俺はひたすら彼女に謝った。その後フィルカは、ある金持ちの息子の身代わりに兵隊になる契約をし、いよいよ入営する日に俺の女房の所へ「3年間愛し続けていた」と言いに来て、彼女も奴の罪を許したのだ。俺が問い詰めると「フィルカを誰よりも愛している」と女房は言うので、俺は女房をナイフで刺し殺したんだ。]
シシュコフが話し終わると、苦しそうに呻いていたルカ(本名フィルカ)が、息を引き取り、その死に顔を覗き込んだシシュコフは、ルカが実はフィルカであったこと知り愕然とする。
衛兵がアレクサンドルを呼びにきて、母親の嘆願が承認されてアレクサンドルが釈放されることを告げ、監獄の司令官は酔っぱらいながらこれまでの不法の仕打ちを詫びる。足枷(あしかせ)を外されたアレクサンドルは「死者が復活した」と喜び、囚人たちは翼の癒えた鷲を放して自由への憧れを合唱する。鷲は大空に飛び、衛兵が囚人たちに作業に戻るように命じて、幕となる。