♪ Robert le Diable「悪魔のロベール」
作曲:Giacomo Meyerbeer(マイヤベーア1791~1864)
内容:中世ヨーロッパのノルマン人騎士の伝説を基に、E. ScribeとG. Delavigneが台本を書いた、悪魔である父と人間の母の間に生まれた騎士ロベールが、両方の世界(邪悪なものと愛情)の間で揺れ苦しみながら最後に救われるという物語。「死んだ尼僧たちの踊り」など、バレエ音楽も優美で、親しみやすく明るい音楽のオペラ。「フランスグランド・オペラの黄金時代の幕開け」といわれる作品。 全5幕 仏語
あらすじ:
第1幕 悪魔を父に、人間(公爵の娘)を母に生まれたノルマンディ公爵ロベール(テノール)は、友人ベルトラム(実は悪魔の父が姿を変えている。バス)と、シチリアに流れ着き、酒場で飲んでいる。やってきた騎士の一団の一人ランボー(テノール)が、故郷の噂話«悪魔のロベール»を、「その昔ノルマンディー公の娘ベルタは、王子を装った悪魔と恋に落ち、息子ロベールが生まれた。ロベールは粗暴で手当たり次第婦女子を襲う悪魔だ、気をつけろ!」と面白おかしく歌う。それを聞いた当の本人ロベールが怒りに震えて剣を抜くと、ランボーは「私は自分の婚約者と一緒に、貴方に手紙を届けるためにノルマンディーから来た。お許しを」と懇願し、婚約者アリス(メゾソプラノ)を呼ぶ。一目見たロベールは、直ぐに彼女が自分の乳兄妹のアリスと分かり、騒ぐ騎士たちから彼女を護って、2人は身の上話を始める。アリスは「私は貴方のお母様の頼みで参りました。お母様が死の間際に、愛する息子に伝えておくれ、天国から見守っているからいつか相応しい時にこの手紙を読むように、と私に遺言状を託されたのです」と言い、ロベールは「今はまだその時ではない」と手紙を拒む。そして、ロベールも「故郷を追われてシチリアに流れ着き、王女イザベルと恋仲になったが、愚かにも王にたてつき騎士たちと決闘になってしまった。絶体絶命の時にベルトラムが助けてくれたが、それ以来イザベルに会えないのだ」と自分の身の上話をする。アリスは、私が貴方の手紙を彼女に届けようと優しく言う。そこへ現れたベルトラムを見たアリスは、故郷の城にあった大天使ミカエルが組み敷いている悪魔の顔にそっくりだと恐怖に青ざめる。アリスが去った後、ロベールは「善に惹かれる気持ちと悪に惑わされる間で揺れる」と悩むが、ベルトラムに「私の固い友情を疑うのか。こんなに貴方を思っているのに。さあ運試しに騎士たちと賭博でもしよう」と誘われ、「この世で一番大切なのは快楽だ!」と叫んで賭博に興じ、金も武具も全て失ってしまう。
第2幕
シチリア王の城では、ロベールを愛する王女イザベル(ソプラノ)が、父王がグラナダの王子と自分を結婚させようとして、ロベールとの恋が成就しないこと嘆き歌っている。そこへアリスが現れてロベールからの手紙を渡し、読んだイザベルは歓喜する。現れたロベールが、自分の非を悔いて許しを求め、彼女も彼を許し、二人は愛の二重唱を歌う。イザベルとの結婚をかけた御前試合が迫り、彼女は剣も甲冑も失ったロベールに新しい剣と甲冑を与え、彼は「今日の試合で必ず勝って貴女と結婚しよう」と高らかに歌う。ところがベルトラムが現れて「グラナダの王子が御前試合の前に森で二人で決闘だ」と申し込んでいると、偽の決闘を伝え、ロベールはベルトラムの罠とは知らず森へ出かけて行く。
御前試合の前のバレエが繰り広げられて試合開始が迫るが、ロベールは現れず、試合開始のラッパが鳴って彼は不名誉な不戦負けとなり、イザベルは嘆き悲しみ退場し、ベルトラムはほくそ笑む。
第3幕
第1場 暗い岩山でランボーが婚約者のアリスを待っていると、ベルトラムが現れる。「自分たちは今日結婚する」と話すランボーに、ベルトラムは金貨を与え「結婚は急ぐことはない。快楽こそ人生、もっと人生を楽しめ」とささやき、その気になったランボーは遊びに行ってしまう。一人になったベルトラムは、地下に通じる洞窟の前で悪魔に祈り、地下からは悪魔の合唱が聞こえてくる。彼は「自分と人間の間にできた息子ロベールを、本当の悪魔にせねばならぬ」と言って洞窟に入って行く。そこへアリスが、ランボーを探しにやってくるが見当たらず、怯えて神に恋人の加護を祈る。地面が揺れて雷鳴が響き地下から「ロベール」と呼ぶ声が聞こえ、驚愕したアリスが十字架に抱きついて神に祈っていると、ベルトラムが洞窟から出てきて「判決が下った。今夜0時までにロベールを悪魔の世界に入れないと永遠に息子を失ってしまう」と呟き、アリスに気付いて「お前は全てを聞いて、私の正体も分かってしまった。お前も家族も殺すぞ」と彼女を脅すが、彼女は十字架に抱きついているので手を出すことができない。ロベールが現れるのでアリスは逃げ、ロベールは、御前試合に出場できず名誉を失って頼れるのはベルトラムだけだと泣きつき、ベルトラムは廃墟の修道院にある魔法の枝を取りに行けとそそのかす。
第2場 ベルトラムは、ロベールよりも先に廃墟の修道院に行き、罪を犯した尼僧たちの墓に呼びかける。「私の声が聞こえるか尼僧たちよ、さあ起き上がれ、地獄の王の命令だ。今から来る騎士が枝を取るのを躊躇するなら、彼を誘惑してそれを遂行させるのだ。」尼僧たちは墓の下から起き上がり、華やかなバレエを踊り始める(有名なバレエ「死んだ尼僧たちの踊り」前半)。次にロベールがやってきて、魔法の枝を取ろうとするが、恐怖と罪深さに躊躇する。すると尼僧たちは、美しく舞いながらロベールが枝を取るように誘惑する(バレエ後半)。陶然としたロベールがついに枝を手に取ると、「これで彼はわれらのものだ!」という地獄の悪魔たちの勝利の叫びが響く。ロベールは、その枝を持てば自分の姿は他人からは見えず、またその枝を振ればその場にいる全ての人を眠らせることができるという魔法の枝を手に、イザベルの城へと向かう。
第4幕
イザベル王女の城では、侍女たちが王女の望まない結婚の準備をしている。そこへアリスが現れ、自分は今日シチリアを発たねばならないが、どうしてもロベールに渡さなくてはならない手紙があり、それを渡さなければ彼が危険なことになると、イザベルに助けを求める。
シチリア王の給仕長アルベール(バス)が騎士たちと、御前試合の勝利者グラナダの王子からの贈り物を届ける。そこへ魔法の枝を持ったロベールが現れて枝を振り、魔法の力で人々は眠ってしまう。ロベールはイザベルだけを眠りの魔法から解き、目覚めたイザベルは、悪魔的な笑いを浮かべるロベールに慄く(おののく)。ロベールは強引に彼女を連れて逃げようとするが、イザベルは「私は貴方が恐ろしい、許して」と懇願する。ロベールは「もし貴女がもう愛してくれないのなら死んだ方がましだ」と、魔法の枝を折って、魔法が解けたアルベールら騎士たちに追われて逃げて行く。
第5幕
追われたロベールとベルトラムは、司祭が祈りを捧げている教会に逃げ込む。ベルトラムは「魔法の枝を折ってしまった今、残る手段は我々の仲間になることだ」と言い、ロベールは彼の契約書に署名をしようとするが、その時幼い頃母が歌ってくれた聖歌が聞こえてきて躊躇する。ロベールは「お前は一体何者なのだ?」とベルトラムに問いつめ、ついにベルトラムは「ランボーが語った通り、私こそがお前の父、悪魔だ」と正体を明かす。「愛する息子よ、私にはお前しかいないが、憐れな父を捨ててイザベルと結婚するかはお前の自由。だが真夜中までに署名をしなければ、私たちは永遠に別れる運命なのだ」という父の言葉にロベールの心は揺れる。そこへアリスが駆けつけ「グラナダの王子はイザベルの気持ちを知って結婚を解消したので、早くイザベルのもとへ」とロベールを引っぱり、父ベルトラムは「もう時間がない一緒に来るのだ」と言う。ロベールは、父と乳兄妹の両方に引かれて迷い、クライマックスの三重唱となる。ベルトラムは悪魔の誓約書を見せて「この誓約書通りにお前を連れて行く」と言い、ロベールも一緒に行きかけるが、アリスは胸にしまってあったロベールの母の遺言状を出して二人の間に割って入り、「私を誘惑した悪魔、お前の父の言葉に従ってはならない」と書かれている母の言葉を示す。父と母の間で激しく迷うロベール。その時真夜中の鐘が鳴り、ベルトラムは炎となって消え、現れたイザベル、アリスや人々の歌う「ロベールは救われた。神に栄光あれ」の合唱で幕となる。