The miraculous Mandarin 「中国の不思議な役人」
作曲:Béla Bartók(バルトーク1881~1945)
脚本家M. レンジェル自身が、台本の題名にグロテスクなパントマイムと書いているように、退廃的でエロティックな雰囲気 を持つ1幕のパントマイム劇。 同作曲者のオペラ「青ひげ公の城」と同様に≪男女関係の絶望的状態(グリフィス)≫というテーマを扱っている。1幕 ハンガリー語
あらすじ:
悪党たちの隠れ家である、都会の片隅のアパートの一室に3人の悪党と少女がいて、悪党は少女に、金を奪うため、窓辺に立ち男を誘惑するように命じる。少女は嫌がるが、悪党たちは無理やり彼女を窓辺に連れて行き、自分たちは身を隠す。仕方なく少女は窓辺から手招きをして、通りの男を誘惑する。すると初老の伊達男と目が合う。彼はすぐに階段を上がってくる。お金を持っているかと尋ねる少女に、彼は「お金など重要ではない。大事なのは愛だ」と言ってしつこく少女を追い回す。しびれを切らした3人の悪党は飛び出して、初老の男をつまみ出す。
再び少女が窓辺に立つと、少年と目が合う。はにかんだ少年は戸口に現れるが、どうして良いか分からず突っ立ったままでいる。緊張した少年は、金も持っていない。しかし好感を持った彼女は、少年を引き寄せワルツを踊り始め、2人の踊りはだんだん情熱的になっていく。しかし金のない男に用がない悪党たちは、少年を放り出す。
悪党たちに「もっと金持ちの男を連れてこい」と命ぜられ、少女がまた窓辺に立つと、今度は高級な服に身を包み、たくさんの宝石を身につけてはいるが、意志の通じそうもない男(中国の役人)と目が合う。役人はすぐに階段を登ってきて、3人の悪党は隠れる。
役人は部屋の前までやってくるが、入り口で動かない。少女は怖がって後ずさりするが、隠れていた悪党たちは彼女を役人の方へ押しやるので覚悟を決め、おびえながら役人を手招き、椅子を勧めると役人は腰掛ける。役人が片時も目を離さず見つめ続けるので、ためらいながら誘惑の踊りを踊り始める。
踊りは徐々に高揚し、ついには野性的でエロティックなものになる。役人の目はずっと少女に注がれ、視線は欲望を高めてゆく。ついに少女は役人の膝に崩れ落ちる。彼は興奮の余り震え始めるが、気味が悪くなった少女は飛び起き逃げる。それを追う役人。2人の追い掛けっこが始まり、ついに役人は少女を捕まえ、2人は床に倒れる。ここで悪党たちが飛び出して役人を押さえつけ、宝石と金を奪う。更に役人を殺してしまおうとベッドの上に投げ出し、その上に枕や毛布、マットレスなどを積み上げ、悪党の一人がその上に乗って窒息死を図る。悪党たちは、もう死んだだろうと頷(うなづ)き合うが、役人の顔が枕の間から現れ、まだぎょろついた目を凝らして少女を見ている。
驚いた悪党たちが、今度は錆びた長いナイフで役人の腹を刺す。役人はよろめき、ほとんど崩れ落ちそうになるが、やはり死なない。少女に飛びかかる役人を、悪党たちは押さえつける。しかしなおも役人は少女を恍惚と見つめているのだった。
恐怖に駆られた3人は、もがく役人の編んだ髪を首に巻き付け、シャンデリアのフックに吊す。シャンデリアは床に落ちて割れるが、暗い部屋の中で吊された役人の身体は青緑色に輝き始める。3人の悪党と少女は、恐怖におののきながら役人を見つめる。
少女はある決心をして、悪党に役人を降ろしてくれと頼む。悪党は役人の編んだ髪をナイフで切り、役人は床に崩れ落ちるが、すぐに飛び起き少女に向う。少女は逆らわず役人を自分の胸で受け止める。少女と抱き合った役人は至福の呻き声を上げ、その傷口から血が流れ始め、息絶える。