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♪ Henry Ⅷ「ヘンリー8世」

by hidepost, le 27 fév 2023

作曲:Camille Saint-Saëns(サン・サーンス1835~1921)
内容:モネ劇場の今シーズンのチューダー朝史劇オペラの一環としてBastardaに続いて上演するこのオペラは、女王エリザベス1世の父ヘンリー8世の話で、スペイン人作家デ・ラ・バルカの戯曲「イングランド国教会分裂」とシェイクスピアの「ヘンリー8世」を元に改訂された戯曲を原作に、L. DétroyatとA. Silvestreが台本を書いた。ヘンリー8世とキャサリン王妃と王の愛人アン、アンとドン・ゴメスとヘンリー8世という2重の三角関係の憎愛を中心に描いている。1883年パリ・オペラ座での初演で47歳の作曲者の成功作となったこの作品は、英国、スコットランド、アイルランドのチューダー朝の音楽を入念に調べ、それらをモチーフに扱いオペラに統一感を持たせた格調高いグランド・オペラ。
全4幕 フランス語

あらすじ:登場人物名はフランス語表記

第1幕

アンリ8世の王宮の大広間、1530年

テューダー朝風の荘厳な短い序奏。駐英大使として赴任したばかりのスペインのドン・ゴメス(テノール)が、旧知のノーフォーク公爵(バリトン)と再会し、名前を伏せて自分の恋人の美貌を女神のようだと称賛する。ノーフォーク公爵がその恋人の名を問い、ドン・ゴメスがアンヌ・ブーランだと打ち明けると、彼は仰天して「暴君アンリ王はそのアンヌに夢中なので。用心しろ」と警告する。しかしドン・ゴメスは「彼女とは手紙で永遠の愛を誓い合った」と歌う。ノーフォーク公爵は「王の親友であったバッキンガム公でさえ謀反の濡れ衣を着せられて、今夕処刑されるのだ」と伝える。ドン・ゴメスとノーフォーク公爵の二重唱に続いて、死刑判決を受けたバッキンガム公を憐れむ合唱が聞こえて来る。アンリ王(バリトン)が現れ、ノーフォーク公爵が、新しい駐英大使ドン・ゴメスを王に紹介する。王はドン・ゴメスに駐英大使着任の祝辞を述べ、彼の恋人にも会ってみたいものだと冷やかす。王を残して全員が退場すると、王はアンヌへの苦しい恋心を、アリア「王でさえ支配する恋!」で独白する。サレイ伯爵(テノール)が登場し、王がアンヌ・ブーランと再婚するために起こしたカトリーヌ王妃との離婚裁判にローマ教皇クレメンスが反対していると伝え、王は怒りをサレイ伯爵にぶつけ、「愛が勝利した心には」とアリアを歌う。

アンリ王がアンヌ・ブーランに夢中であることを知らないカトリーヌ王妃(ソプラノ)が登場し、王は王妃に、アンヌ・ブーランに公爵夫人の称号を与え、さらに王妃の女官頭に任命することを伝える。カトリーヌ王妃は、今死刑判決を受けたバッキンガム公の助命を嘆願するが、王は冷酷にも即座にこれを拒絶する。彼女はバッキンガム公の助命を聞き入れてくれないのは、王が自分を愛していないことの表れだと非難するが、王は全く意に介さない。カトリーヌ王妃は、王が今アンヌ・ブーランに夢中である事に気づき「ローマ・カトリックでは離婚は認められない」と責めるが、王は「夭折(ようせつ)した兄の未亡人だったカトリーヌとの結婚は無効だ」と言い放ち、夫の裏切りに彼女は絶望する。王と王妃のデェエットが終わると、アンヌ・ブーラン(メゾソプラノ)たちが、ドン・ゴメスと共に入場する。王がアンヌに「ドン・ゴメスと面識があるのか」と問うので、彼女はドン・ゴメスと愛を誓い合った関係を見抜かれたかと困惑するが、王が密かにアンヌに愛を囁くので、彼女の心に期待感が芽生える。王宮の外ではバッキンガム公処刑の行進が始まり、処刑を悲しむ「運命の刃が振り下ろされた」の合唱が聞こえる。王は、裏切り者は罪を償うのだと歌い、アンヌとドン・ゴメスもそれぞれの思いを歌い、合唱と相まって第1幕を閉じる。

第2幕

アンヌがアンリ王から与えられたリッチモンド宮殿の控えの間

古風な間奏曲に続いて、子供の遊びを讃える無邪気な合唱が聞こえる。3年後、アンヌ・ブーランはアンリ王の寵愛を受けながらも愛人にならず、一方カトリーヌ王妃は、夫アンリ王が起こした離婚裁判の結果を待つ辛い生活を余儀なくされていた。かつて愛を誓い合ったアンヌが王の寵姫となってしまったドン・ゴメスは、辛い胸の内をアリアで歌う。アンヌの侍女たちが彼女を讃える合唱を歌い退場し、アンヌとドン・ゴメスが2人きりになり、彼はアンヌの心変わりを責めるが、彼女は昔と変わらず貴方を愛していると反論し、今は王の寵姫の身であるので、しばらくの猶予が欲しいと訴える。そこへアンリ王が現れ、アンヌとドン・ゴメスが2人きりで会っているのを訝(いぶか)しがり、彼にアンヌへの愛を語っているのかと2人の仲を疑い、ドン・ゴメスを彼女のための夜会に招待する。ドン・ゴメスが退出すると、王はアンヌに執拗な求愛をし、それを固辞する彼女に、将来の身分を保証し、カトリーヌ王妃と離婚さえすると口走ってしまう。これを受けて、アンヌはついに王の求婚に応じて、王と一緒に二重唱「これが運命だ!」を歌う。

部屋に戻り「平民の娘が王妃になる夢が叶ったのだわ!」と歓喜のアリアを歌うアンヌの元に、逆上したカトリーヌ王妃が現れ「身のほどを知れ!」と罵倒し、アンヌは「王は私のもの!」と反駁する。王が戻ると、カトリーヌ王妃は王を非難するが、王はアンヌの肩を持つ。そこへローマ教皇特使がやって来るが、王は面会を拒絶する。寄り添うアンリ王とアンヌを祝して、踊り子によってバレエが披露される。

第3幕

法廷への入廷を前に、アンリ王とアンヌ・ブーランはカンタベリー大司教クランメル(バス)によって婚礼の式を挙げる。傍聴席が民衆で埋め尽くされた法廷が開き、アンリ王、カトリーヌ王妃、ドン・ゴメスが入廷する。荘厳なイングランド讃歌が全員で歌われ、裁判が始まる。まずアンリ王が、「兄の未亡人カトリーヌとの婚姻は旧約聖書レヴィ記により無効である」と裁判官たちに提訴する。打ちひしがれるカトリーヌ王妃は「王のご慈悲を請います」と懇願のアリアを切々と歌い、民衆の同情を買う。スペインの同胞としてカトリーヌ王妃の弁護に立つドン・ゴメスは、「スペインはカトリーヌ王妃の名誉のためには戦争さえ辞さない」と訴えるが、アンリ王は「イングランドは復讐も戦争も受けて立つ」と反論し、同席者一同が王の言葉を合唱する。裁判官から婚姻無効の判決が言い渡され、カトリーヌ王妃は「裁判官たちは、皆自分の敵である」と言い、裁判の違法性を訴える。そこにローマ教皇の特使カンペッジョ(バス)が到着し「ローマ教皇はアンリ8世の訴願を棄却し、離縁を許可しない」と宣言し、裁判の判決を覆(くつがえ)す。怒った王は、アンヌ・ブーランとの結婚を宣言し、それに対しローマ教皇の特使は、アンリ王の破門を宣言する。王がローマ・カトリック教会からの離脱とイングランド国教会の独立を宣言すると、民衆が、国王でありイングランド国教会の長となったアンリ8世の勝利を称賛する大合唱が巻き起こる。絶望したカトリーヌとドン・ゴメスは退廷する。

第4幕

第1場

リッチモンド宮殿、1536年

王妃になったアンヌ・ブーランは、3年が経過しても男子に恵まれないまま、王の嫉妬と猜疑心(さいぎしん)に脅(おび)える日々を過ごしていた。一方、カトリーヌ元王妃は、失意と悲嘆でキンボールトン城で重病の床についていた。アンリ王の誕生日祝いで、アンヌのリッチモンド宮殿に人々が集まっている。ドン・ゴメスが駐英大使の最後の務めとして、カトリーヌ元王妃からの王への祝いの伝言を持参して来る。ドン・ゴメスとの久々の再会にアンヌは恐怖に打ち震えつつ、昔の手紙を持って来たのではないかと問い質す。ドン・ゴメスは「偽りの愛の誓いなどとうに全て焼き捨てた」と答える。しかしアンヌはドン・ゴメスへの愛を綴った手紙がもう一通だけカトリーヌ元王妃の手元に残っている事実を思い起こし、何があってもその手紙を取り返さねばならないと焦燥する。王はカトリーヌ元王妃の伝言「王への永遠の忠誠を誓い、あの世でも王を讃える」に感動し、ドン・ゴメスに自分をカトリーヌのいる城へ連れて行くよう命じる。アンヌへの疑念や嫉妬を深めている王は、何としてもカトリーヌからアンヌの秘密を聞き出したい欲求に駆られたのだ。ドン・ゴメスは王の態度を訝しがりつつも、王に同行してカトリーヌの暮らすキンボールトン城へ向かう。

第2場

キンボールトン城

舞台裏からアンリ8世の誕生日を祝う合唱が聴こえ、強制的に離婚させられたカトリーヌ元王妃は、わずかな侍女たちと暮らし瀕死の状態である。彼女は故郷を想い、「スペインへ帰りたい!」と切なる願いを歌い、形見の品々を侍女たちに分け与え、祈祷書はドン・ゴメスへの贈り物とする。アンヌが訪れ、カトリーヌに王妃の座に目が眩んだことの許しを乞い、例の手紙を返して欲しいと懇願する。しかしひざまずくアンヌの目的がドン・ゴメスへの愛の証拠隠滅であることを知るカトリーヌは、激昂し拒絶する。そこにドン・ゴメスを従えて現れた王は、白々しくもカトリーヌに長年にわたって酷い憂き目にあわせたことを詫び、アンヌの自分への不誠実や裏切りの証拠を持っていないかと詰問する。しかしカトリーヌはドン・ゴメスの命を案じて何も語ろうとしない。嫉妬に狂って業を煮やした王は、不実の証拠がないなら疑惑は晴れたとして、カトリーヌへの残忍な当て付けとしてアンヌへの永遠の愛を誓い始める。アンヌは恐怖に怯えながら王への愛を誓う。王の情け容赦のない仕打ちに、カトリーヌは「神はまだ私に過酷な試練を与えるのか」と呻きつつ、証拠の手紙を火にくべて燃やし、息を引き取る。ついに秘密を入手できなかった王のアンヌへの疑念と憎悪は一気に頂点に達し、「王を愚弄するものは打ち首だ」と叫ぶ。アンヌは身の破滅が迫っていることを悟って崩れ落ち、幕となる。