♪ Hoc (Le Nez/De Neus)「鼻」
作曲:Dmitry Shostakovich(ショスタコーヴィチ1906~1975)
内容:ショスタコーヴィチの初期の作品は前衛的な作風で、22歳の時に作曲したこのオペラは前衛的作品の集大成となるものだが、保守的な階層や、政府と連携して隠然たる力を持つ「ロシア・プロレタリア音楽家協会」の度重なる圧力により上演できなくなり、スターリン没後の«雪解け»で見直され再評価された。原作はニコライ・ゴーゴリの同名の短編小説で、台本は作曲者自身とY. Zamyatin、G.Lonin、A. Preysが書いた。
エピローグと3幕10場 ロシア語
あらすじ
1870年頃のサンクト・ペテルブルク(レニングラード)
第1幕 床屋のイワン・ヤコヴレヴィチの住居
8等官の軍人プラトン・コワリョフ(バリトン)が、床屋のイワン・ヤコヴレヴィチ(バス)に髭を剃ってもらっている。
翌朝、床屋ヤコヴレヴィチは、朝食の焼きたてのパンの中から鼻が出てきて仰天する。妻プラスコヴィア(ソプラノ)はかんかんに怒り「お前がお客の鼻をそぎ落としてしまったのだろうから、さっさと始末してこい」と言う。床屋ヤコヴレヴィチは、仕方なく鼻を道端に捨てようとするが、その度に知り合いに出くわすので、どうしたらよいか分からなくなってしまう。それでもやっとネヴァ河に鼻を投げ込むことができたが、警官に見咎められて連行される。
一方、目覚めた軍人コワリョフは自分の鼻がないことに気づく。初めはただ信じられない思いだったが、現実だと分かるとショックを受け、家を飛び出して鼻を探しに行く。彼が大聖堂に入ってみると、鼻(テノール)が人間の大きさになって、しかも5等官の軍服に身を包んで祈りを捧げている。コワリョフは鼻に元の場所=自分の顔に戻ってほしいと頼むが、鼻は何の話かわからないととぼけ「自分より階級の低い者とは関わりたくない」と言って拒絶する。コワリョフが目をそらした隙に、鼻は姿を消してしまう。
第2幕 新聞社の一室
行方不明の鼻を捜すため、コワリョフは警察署長の家を訪ねるが、署長は不在。苛立だった彼は、新聞広告を出すことにして新聞社に行くが、広告係(バス)は、ある伯爵夫人の迷子の飼い犬の案件を持ってきた召使にかかりっきりになっている。ようやくコワリョフの番になり事情を説明するが、広告係はそんな広告を載せたら新聞社の評判に関わるといって受け付けてくれない。コワリョフは食い下がり、顔の覆いをはずして本当に鼻がないことを見せる。広告係はびっくりするが、それなら記事にすれば売れると言い出し、好意の印にと、嗅ぎ煙草をひとつまみ分けてくれる。侮辱されて傷ついたコワリョフは新聞社をあとにする。
コワリョフが家に戻ってみると、使用人のイワン(テノール)がソファに寝そべってバラライカを弾いている。彼は使用人を追い払い、自分の惨めな境遇について嘆く。
第3幕 ペテルブルクの郊外の駅
警察も行方不明の鼻の捜索に乗り出し、サンクト・ペテルブルグ郊外の駅前で刑事(テノール)が警官を呼び集めている。
人々が列車に乗り込もうと混雑する中、若いパン売り娘(ソプラノ)が騒ぎ出して駅は大混乱に陥る。そこへ鼻が走ってきて列車を止めようとするので、みんなで鼻を追いかけ回し、とうとう鼻は逮捕される。叩かれた鼻は元の大きさに戻り、紙で包まれる。
刑事がコワリョフに鼻を返し、コワリョフは鼻を顔に戻そうとするが、うまくいかない。医者(バス)もさじを投げる。コワリョフは、この惨めな出来事の原因は、自分が夫人の娘との縁談を断ったためにポットチナ将校夫人(メゾソプラノ)に呪いをかけられたのではないかと疑う。コワリョフは、ポットチナ将校夫人に手紙を出すが、彼女からの返事を読むと彼女は無関係であることがはっきりする。そうこうしている間に、鼻が街をうろついているという噂が広がり、一目見ようと群衆が騒ぎ出し、警官隊が出動する騒ぎになる。
ある朝、コワリョフが目覚めると、鼻が元通りになっていて、彼は喜びのあまりポルカを踊り始める。警察から釈放された床屋のヤコヴレヴィチがやって来て、コワリョフのひげを剃る。鼻が戻って嬉しいコワリョフはネフスキー大通りをぶらつき、知り合いと陽気に挨拶を交わす。登場人物たちは、この物語は一体何だったのだろうと振り返り幕となる。