♪ Pikovaya Dama「スペードの女王」
作曲:Pyotr Il’yich Tchaikovsky(チャイコフスキー1840~1893)
内容:1843年発表のプーシキンの同名の中編小説を原作に、作曲者の弟モデスト・チャイコフスキーが台本を書き、作曲者自身も手を加えて、原作にはない人間を支配する運命の力を描き出すドラマ性を持たせている。作曲者最晩年の作品で、全幕で歌い通す主役ゲルマンはテノール歌手にとっては大役である。全3幕 ロシア語
あらすじ:
第1幕
第1場 ペテルブルクの広場、子守や乳母や家庭教師などが、連れてきた子どもたちを遊ばせている。近衛仕官のチェカリンスキー(テノール)とスーリン(バス)が、最近同僚のヘルマンが酒ばかり飲んでいると話しているところへ、ヘルマン(テノール)がトムスキー伯爵(バリトン)と現れる。心配する友人に ヘルマンは「実は恋をしていて、その人は 身分が違う上に名前も知らないのだ」と嘆く。結婚を控えたエレツキー公爵(バリトン)が現れ、皆に祝われて花嫁は誰かと尋ねられる。そこへ伯爵夫人(メゾソプラノ)と孫娘リーザ(ソプラノ)がやって来るので、この人だとリーザを紹介する。ヘルマンは自分の恋する人は、エレツキーの婚約者のリーザと知って絶望し、リーザはヘルマンの燃える眼差しに何かを感じ、伯爵夫人と去っていく。トムスキー伯爵は 昔あの伯爵夫人はパリで “モスクワのヴィーナス”と呼ばれ、王妃のカルタ会で全てを失った時に、彼女に夢中だったサンジェルマン伯爵から絶対に負けない3枚のカードの秘密を教えられて、負けを取り戻した。その後、彼女は夫とある青年にその秘密を教えたが、幽霊が現れ「秘密を知ろうとして近づく3人目の男から死を受ける」と予言されたのだと、彼女がスペードの女王と呼ばれる言われを話す。突然雷鳴が轟き、人々は去るが、1人残ったヘルマンは、その秘密をつかんでリーザと結婚したいという執念に取り付かれる。
第2場 リーザの部屋で 彼女は友人のポリーナ(アルト)たちと歌っている。その騒ぎに家庭教師(メゾソプラノ)が来てたしなめ、皆は帰るが、ポリーナは婚約の日なのに悲しそうに見える、とリーザに言って帰ってゆく。1人になったリーザは涙を流し、自分が身分の高い立派な婚約者よりもヘルマンの暗い眼差しの虜になっている事に気がつく。その時へルマンが現れ、驚くリーザに「私は死ぬ覚悟だ。人を呼びたかったら呼びなさい」と近づき、熱烈な愛の告白をする。物音を聞いて伯爵夫人がやって来るが、彼女はヘルマンをかばって隠し、夫人が去ると、ついに彼女も彼への愛を告白する。
第2幕
第1場 仮面舞踏会で人々が楽しく踊り、花火の合図で皆バルコニーへ出る。そこへリーザと婚約者エレツキーが現れ、悲しそうなリーザに彼は切々と愛を歌って2人は去る。へルマンが「今夜余興の芝居の後、広間で待っていてください」と書かれたリーザからの手紙を手に現れ、もし自分が3枚のカードの秘密を知る事ができれば、彼女と遠国に逃げられると考える。余興の牧歌劇が劇中劇として演じられ、終わった後 仮面を着けたリーザがヘルマンに近づき、伯爵夫人の寝室の鍵を渡して「夫人の寝室の肖像画の下に自分の部屋に通じる扉があるので、今夜忍んで来て欲しい」と告げる。エカテリーナ女王が来た事が告げられ、一同は万歳を叫び、ヘルマンはリーザと3枚のカードの秘密にとりつかれて鍵を握り締める。
第2場 ヘルマンが伯爵夫人の寝室に忍び、リーザの部屋へ行こうと伯爵夫人の肖像画に近づくが、まずはカードの秘密を聞き出そうと呟いてカーテンの陰に隠れる。夫人が着替えをしている間にリーザも戻り、召使に「部屋には彼が来ている。味方になって」と頼んで下がらせ自分の部屋に入る。昔を思い出しオペラの一節を歌って一人になった伯爵夫人に、ヘルマンが近づき「3枚のカードの秘密を教えてください」と迫る。恐怖のあまり口がきけない夫人にヘルマンはピストルを抜いて迫るので、彼女は倒れて死んでしまう。物音を聞いて入ってきたリーザは、「貴方は私が目的では なく、カードの秘密が目的だったのか」と怒りと絶望にかられ彼に去るように言い、夫人の亡骸に取りすがる。
第3幕
第1場 ヘルマンが、兵舎の自室でリーザからの「貴方に殺意は無かったと今は信じている。今夜12時に運河で会いたい」と書かれている手紙を読み終えると、彼の耳には伯爵夫人の葬儀の時の不気味な合唱が聞こえてくる。風が唸って誰かが窓を叩く音が聞こえ、幻覚にとらわれたヘルマンは 恐怖に駆られて戸口から逃げようとするが、その時夫人の亡霊が現れ「私の本意ではないが、リーザを救うために秘密を教える。3と7とエースだ」と言って消え去る。へルマンは狂った様に「3、7、エース」と繰り返す。
第2場 冬の夜更け、リーザが運河に現れる。彼女はへルマンが犯罪を犯せる悪魔の様な男であるという思いと、そうではないという思いとが交錯して苦しみ立ち去ろうとする。そこへヘルマンが来て、二人は愛の2重唱を歌う。「何処かへ逃げよう」と言うヘルマンに、彼女は「地の果て迄でも一緒に行く」と答えると、彼は突然正気を失い「賭博場だ」と叫び、「婆さんがカードの秘密を教えてくれたが、ピストルを向けただけで死んでしまった」と激しく笑う。リーザは殺人者と共に罰を受けると嘆き、狂った彼を救おうと考えて逃げようと言うが、狂ったヘルマンは「3、7、エースだ」と叫んで リーザを突き放して賭博場に駈け出していく。絶望したリーザは運河に身を投げる。
第3場 賭博場ではチャカリンスキーやスーリンたちもカードをしている。一度も来た事のないエレツキー公爵の出現にいぶかるトムスキーに、彼は「婚約に破れて傷つけられた。仇討ちに来たのだ」と答える。へルマンが現れ、勝負に続けて勝ち「人生はばくちだ」と祝杯を手に歌う。3回目の勝負でエレツキーが相手となり、「エース」と叫ぶヘルマンに「スペードの女王で君の負け」と言い返す。ヘルマンの手にはスペードの女王のカードがあり、伯爵夫人の亡霊が現れる。へルマンは亡霊に向かって「何が欲しいのか、俺の命ならくれてやる」と言って、自ら短剣で胸を刺す。瀕死のヘルマンはエレツキーに許しを乞い、「リーザよ、本当に愛しているよ」と言って息絶える。人々は「この疲れ果てた魂に安らぎを」と合唱して幕となる。