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♪ Yevgeny Onegin「エヴゲニー・オネーギン」

by hidepost, le 8 nov 2022

作曲:Pyotr Il’yich Tchaikovsky(チャイコフスキー1840~1893)
内容:モスクワ音楽院の教師であった作曲者は、ロシアの国民的詩人プーシキン(1799~1837)の同名の韻文小説をオペラ化することを提案され、最初は「突拍子もない考えだ」と受け止めたが、数日後にはあらすじを書き上げる。台本は友人である作家でジャーナリストのシロフスキーと2人で、プーシキンの韻の美しさを損なわないようになるべく手を加えないように作成した。原作はインテリ青年オネーギンに同情的だが、作曲者はタチアナを主人公にしてその純情さを描き、このオペラを≪抒情的場面≫と名付けた。第1幕第2場のタチアナの「手紙の場」は特に有名。 全3幕 ロシア語

あらすじ

第1幕

第1場 ロシアの辺境の農村にあるラーリン家の庭。女地主ラーリナ夫人(メゾソプラノ)には2人の娘があり、姉のタチアナ(ソプラノ)は物静かな読書好き、妹のオリガ(アルト)は陽気な社交家だ。庭のテーブルでジャムを作るラーリナ夫人と乳母のフィリピエヴナ(メゾソプラノ)の耳に、2人の娘たちの二重唱『恋と悲しみの歌は林の向こうから』が聞こえ、ラーリナ夫人が「私は結婚してからある青年に恋をしたが、夫の愛を信じて家庭を守り幸福を得た」と話す。そこへラーリン家の領地の農民たちが野良仕事から帰ってきて、ラーリナ夫人に飾った麦の束を捧げ、感謝の言葉を述べる。喜んだラーリナ夫人が彼らに酒を振る舞い、農夫たちは合唱し踊り始める。そこへラーリン家の隣家で次女のオリガの婚約者でもある詩人レンスキー(テノール)が、モスクワでの放浪を経てレンスキー宅に住むことになったインテリ青年オネーギン(バリトン)を連れて現れる。婚約者同士のオリガとレンスキーは再会を喜び、タチアナはオネーギンを一目見るなり運命の人が現れたと感じ、恋におちてしまう。フィリピエヴナはタチアナの様子から、彼女の気持ちに気づく。

第2場 タチアナの寝室

オネーギンへの思いのために寝付かれないタチアナは、フィリピエヴナに若いころの恋愛体験を聞かせてくれとせがむが、フィリピエヴナが語るのは古臭い嫁入りの思い出話ばかり。タチアナは「私は恋をしてしまったの」と打ち明け、ペンと手紙を持ってくるように頼み、フィリピエヴナを退ける。タチアナはオネーギンへの思いを手紙にしたため始める。(アリア『私は死んでもいいの』「手紙の場」として有名な名場面)始めは書きあぐねるタチアナだったが、やがて一気に情熱的に書き上げ、朝になって現れたフィリピエヴナに、手紙をオネーギンに渡してくれるように頼む。

第3場 ラーリン家の庭の一隅

庭の茂みの陰から農民の娘たちの苺摘みの歌声が聞こえている。タチアナは手紙を書いてしまったことに動揺し、自分の手紙を読んでオネーギンはどう思っただろうかと不安げに歌う。そこへオネーギンが近づき、彼は手紙をくれたことに一応の礼を述べ、自分は家庭生活に向かない人間であり、あなたのことも妹のように愛していると告げ、あなたは自分を律することを学ぶべきだと、礼儀正しく冷たく諭す。娘たちの苺摘みの合唱が再度聞こえ、うなだれたタチアナはオネーギンの腕に支えられて立ち去る。

第2幕

第1場 ラーリン家の広間

それから数ヵ月後のラーリン家の広間では、タチアナの命名日の宴が開かれ、夫人が招いた近隣の地主とその家族や縁者たちが、軍楽隊の生演奏とふるまわれた料理を楽しんでいる。宴が田舎くさく無粋なものと感じて楽しめないオネーギンは、タチアナとワルツを踊るが、人々の「彼は無作法で自由思想の持ち主で危険な男である」という噂を耳にする。オネーギンは自分をこの会に誘ったレンスキーへの腹いせに、オリガをダンスのパートナーに指名し、レンスキーの不興を買う。やがてフランス人のトリケ(テノール)が、タチアナの美しさを讃える歌を披露し、一同は喝采を浴びせるが、なおもオネーギンの機嫌は直らず、レンスキーがオリガと踊る約束をしていた舞曲までオリガと踊ろうとする。最初は自制していたレンスキーも、激高して激しい言葉でオネーギンを罵り決闘を申し込む。ラーリナ夫人が制するが、オネーギンは申し出に応じ、一同は騒然とし、タチアナとオリガは泣き崩れる。

第2場 水車小屋・冬の早朝

決闘の場所とされた早朝の水車小屋。レンスキーは自らが連れてきた立会人のザレツキー(バス)と共にオネーギンが現れるのを待っているが、約束の時間となっても彼は姿を現さない。死を予感したレンスキーは、人生と婚約者オリガへの未練を吐露するアリア『わが青春の輝ける日々よ』を歌う。やがてオネーギンが立会人のギヨーと共に姿を見せる。オネーギンとレンスキーは、かつての親友関係とその不幸な結末に後悔の念を二重唱で歌うが、促されるままにピストルを手に向かい合って立つ。銃声が響き、レンスキーが倒れる。ザレツキーがレンスキーの死を確認すると、オネーギンは恐怖のあまりその場にうずくまる。

第3幕

第1場 サンクトペテルブルクの大舞踏会

決闘から数年後のサンクトペテルブルクのグレーミン公爵家の舞踏会。オネーギンは決闘後の数年間を外国での放浪生活のうちに過ごし、その後帰国してこの舞踏会に顔を出したのだったが、未だレンスキーを死なせたことへの呵責の念に苛まれており、心満たされぬ日々を過ごしていた。洗練された、上品な客たちはポロネーズ(『エフゲニー・オネーギンのポロネーズ』として単独で演奏されることも多いオーケストラ曲)を踊り、終わるといくつもの話の輪を作るが、場に馴染めぬオネーギンは一人でいる。やがてグレーミン公爵(バス)が夫人を伴って姿を現す。人々は夫人の美しさに目を奪われ、口々に彼女を讃えている。オネーギンは程なく公爵夫人がタチアナであることに気付くが信じられず、またタチアナは客がたたいている陰口からオネーギンの存在に気づく。オネーギンが従兄弟であるグレーミン公爵に彼女との間柄について問うと、タチアナは自分の妻であり、自分の寂しい日々に光を投げかけた大切な存在だと、アリア『恋は年齢を問わぬもの』を歌う。オネーギンはグレーミン公爵によってタチアナに紹介されるが、彼女は「かつてお会いしましたね」と簡単に挨拶する。以前の彼女からは想像もつかない、気品に満ちたタチアナの様子に、オネーギンはたちまちに惹かれてしまう。

第2場 グレーミン公爵邸の一室

部屋着姿のタチアナが、オネーギンから手渡された恋文を手に困惑し、彼の再出現によって昔の情熱が蘇り心を乱されて『私は恐ろしい』と歌う。そこへオネーギンが現れ彼女の前に跪(ひざまず)く。タチアナは「かつて私を冷たく拒絶しお説教をした貴方が、なぜ今になってこのようなことを、目的は財産か名声か」とオネーギンを非難し、自分はすでに結婚した身だ、と激情を押さえて彼を拒む。なおも愛を熱烈に告白するオネーギンはタチアナの手を握り、抱きしめようとする。彼女は「過ぎたことはかえってこない、私は永久にあの人に貞節を守ります」とオネーギンの手を振り払い、部屋を去ってゆく。一人残されたオネーギンは「この恥辱、この悲しみ」と絶望的に叫び逃げるように退場し、幕となる。