あらすじ　

「オーリードのイフィジェニー」

第1幕　
ギリシャ連合軍はトロイ遠征のために港に集結して出帆しようとしているが、順風に恵まれない。神託を仰ぐと、総大将アガメムノン王が月と狩猟の女神ディアーヌを怒らせたので、女神の怒りを鎮めるには、王の娘イフィジェニーを生贄（いけにえ）にしなくてはならないと判明する。アガメムノン王（バリトン）は、娘と英雄アキレスの結婚式を挙げるということにして、娘に港に来るように使いを出す。しかし、娘を犠牲にしてまでトロイへ戦いに行くべきか迷い、再度使いを出して、アキレスが心変わりしたため来なくてもよいと伝える。苦悩するアガメムノンの所へ、祭司長カルカース（バス）やギリシャ軍諸将たちが現れ「早く生贄を祭壇に供えよ」と迫るが、王は父親として娘を犠牲にはできぬと苦しみながらも義務を再認して「もし娘がここに来てその命に従うのならば」と言わざるを得ない。その時、妻クリテムネストラ（メゾソプラノ）に伴われて、娘イフィジェニー（ソプラノ）が到着する。事情を知らないクリテムネストラは、アキレスの心変わりに激怒し、娘に「怒りで身を固めなさい」と言う。イフィジェニーはアキレスの心変わりを「どうしても信じられない」と歌うと、そこにアキレス（テノール）が現れ、彼女がここに来ていることに驚き喜ぶが、イフィジェニーはアキレスの心変わりを疑い2人の話は合わない。アキレスは、誤解を解くために変わらぬ愛を誓い、彼女は喜び、2人は今日のうちにも結婚を、と二重唱を歌う。

第2幕　
陣営では女たちがイフィジェニーの幸せをたたえ、クリテムネストラが娘を神殿に連れて行こうとすると、アキレスも現れ、一同喜びを歌う 。しかし、アガメムノン王の使者として偽りの知らせを届けた護衛指揮官アルカス（バリトン）が「実は神殿には婚礼の祭壇ではなく、女神への生贄の儀式が待っているのだ」と告白する。皆は驚き怒り、クリテムネストラは、アキレスに娘を何とか救ってくれるよう懇願する。アキレスは、力をもって守ろうとアガメムノン王の非道を責めるが、イフィジェニーは「父の愛を信じる」と怒る皆を鎮めようとする。アガメムノン王は激しく迫るアキレスを追い返す。しかし、内心、娘を犠牲にする痛みに苦しみ、アルカスを呼んで娘を連れて逃げるように命じ、自ら犠牲になって死ぬ覚悟をする。

第3幕　
人々が生贄のイフィジェニーを逃がさないよう集まっているため、アルカスは彼女を連れて逃げられない。死ぬ覚悟を心に言い聞かせるイフィジェニーの所へ、アキレスが来て「必ず救い出す」と言うが、彼女は「愛は変わらないが自分に与えられた運命に従わなければならない」と決然と言う。クリテムネストラが現れ「私の手から決して娘を離さない」と言うが、イフィジェニーは祭壇へと叫ぶ人びとと去って行き、母は「ゼウス大神よ」と歌う。祭壇からは生贄を捧げる合唱が聞こえ、アキレスが手勢を引き連れて現れ、神殿は混乱する。突然天上から女神ディアーヌ（ソプラノ）が現れ、イフィジェニーのけなげな決意を哀れみ、「彼女を巫女（みこ）として遠国で神殿に仕えさせよう。怒りもおさまったので順風が吹くであろう」と告げて消える。人びとは女神の慈悲を喜び、ギリシャ軍はトロイへと出帆し、幕となる。

「トーリードのイフィジェニー」

第1幕　
激しい嵐の中、タウリスのディアーヌ神殿の女祭司長となったイフィジェニー（ソプラノ）が、巫女たちと怒りを鎮めたまえと神々に祈っている。嵐はおさまるが、イフィジェニーは「負傷した父が、彼を殺そうとする母から逃れて来た」という夢を昨夜見たと巫女たちに話す。巫女たちは慰め、彼女は遠いギリシャの弟を思いアリアを歌う。タウリスのスキタイ人の王トアス（バス）が来て「この浜に着く外国人をすべて生贄（いけにえ）に捧げなければ命がない」とする不吉な予言者のお告げを言う。大勢のスキタイ人が来て「2人のギリシャ人を捕らえたところ、そのうちの1人は犯した罪の呵責（かしゃく）を感じて死を望んでいる」と告げる。王はその2人を生贄として捧げることを決める。イフィジェニーと巫女は準備を命じられ、人びとはこれで厄介払いができると喜び踊る。2人のギリシャ人、オレスト（バリトン）とその友人ピラード（テノール）が連れてこられ、王はなぜここに来たのかと問い、ピラードは傲（ごう）慢に答え、オレストは自分のために友人まで死に巻き込むのを怖れる。

第2幕　
オレストが母親殺しだけでなく、友人まで巻き添えにすることを悩み、ピラードが慰めているところへ祭司が現れ、2人を別々にする。独り残ったオレストが絶望して気を失うと、
復讐の女神たちが出てきて、彼の回りを踊りながら母親殺しを非難し、最後に母クリテムネストラの亡霊が現れる。イフィジェニーが現れると亡霊が消えて、オレストは彼女が姉に似ていると驚く。オレストが出身地はミケーネだと答えると、彼女がアガメムノン王の消息を尋ねる。オレストは、「王は妃に殺され、その息子は父王の復讐のために母を殺し、一族内の生存者はエレクトラだけだ」と話して聞かせる。イフィジェニーは巫女に彼を連れて行くように命じ、自分の家族に起こった不幸を嘆いて弟の冥福を祈る。

第3幕　
イフィジェニーは部屋で故郷での恐ろしい不幸を思い、弟オレストがもし生きていたらあのギリシャ人とほぼ同年齢なのにと思い、2人のうち1人を救おうと決意する。
別々に連れてこられたオレストとピラードの2人に、イフィジェニーは、自分もギリシャ人であることを打ち明け「2人助けることは難しいが、1人ならば何とか助けられるので、ギリシャに帰って手紙を届けて欲しい」と言う。2人は自分が犠牲になると言い合うが、イフィジェニーにその選択を頼み、彼女はオレストを助けると決める。2人になるとオレストはピラードに自分が犠牲になると言い、2人は友愛の二重唱を歌う。オレストは戻って来たイフィジェニーに、自分が友人ピラードの身代わりになると主張して、彼女も遂にそれを許す。オレストが巫女に連れられて出ていくと、イフィジェニーはピラードに手紙を示して、これをミケーネのエレクトラに渡すよう託す。ピラードは「オレストを救うか、自分も彼と一緒に死ぬかだ」と決意する。

第4幕　
イフィジェニーが、「なぜかあのギリシャ人を殺せない」と神殿で祭壇にひざまずいていると、巫女に連れられたオレストが現れる。巫女が彼女に刀を渡すと、オレストが「オーリードで姉イフィジェニーも同じ様に生贄になった」と言い、イフィジェニーは「弟、オレスト」と叫び2人は抱擁する。その時、1人のギリシャ人女（ソプラノ）が駆けつけ「王が囚人の1人を逃したと知り、もう1人を一刻も早く生贄に捧げるように望んでいる」と告げる。王が兵士たちと現れ、生贄を捧げるように命じるが、イフィジェニーは、彼が自分の弟であることを打ち明けて巫女たちにオレストを守るように命じる。怒った王は2人を襲おうとするが、ピラードがギリシャ人たちと駆けつけ、ギリシャ人とスキタイ人との間で戦いが始まる。突然天上から月と狩猟の女神ディアーヌが現れ、スキタイ人に彼らの野蛮な儀式を止めるように言い、オレストには姉と共に故国に戻るように告げ、人びとの喜びのうちに幕となる。