Charles Buls　（1837〜1914）

　観光客でにぎわうグラン・プラス近くの広場で、犬をかたわらに座っているのは、1891年から99年までブリュッセル市長を務めた、シャルル・ビュル。

　彼は彫金士でしたが、「学識があり、探検家、芸術家」でもありました。市会議員、助役を経て、市長になった彼が、歴史に名を留めているのは、19世紀末の激動の時代に、教育、労働問題に取り組み、またグラン・プラスの建築物の修復と保護に力をそそいだことにあります。カトリック勢力の反発を受けながらも、公教育から宗教色をなくし、自由な教育の体制を整えるための機関「教育連盟」を創設しました。
また、労働運動の高まりに呼応して、労使紛争の仲裁や、雇用促進のための「労働センター」、労働者住宅をつくるなど、時代の流れを汲んだ民主的な行政を目指しました。

　対抗するカトリック勢力による大規模なデモが行われた際も、警察と市民による監視を置くだけにとどめ、無用な衝突を避けたために、一人の死亡者も出さなかったといいます。
後に別のデモで、暴徒に襲われてケガをした時、彼は言いました。「これまで同様、冷静に、確固たる信念と若々しいエネルギーを持って、事にあたる。私が、脅迫や暴力を恐れていると思ったら大間違いだ。課せられた義務を遂行するためには、どんな卑劣な手段にも、ひるまない」。

　ビュルは、99年、突然辞任します。市民にとっては、寝耳に水でした。旧市街の都市計画で、国王の計画−美観を損ねるとビュルは考えた−を思いとどまらせることができず、辞任する道を選んだのです。

　市長の座を降りた後、彼は念願だった美術研究や、公教育の問題に取り組んでいきます。ビュルは今、旧市街の玄関口にいます。ぴんと上を向いたひげ、伸ばした背筋、意思の強そうな目。信念の人、という感じがしませんか？