エノーHainaut州の首都モンスは、小高い丘につくられた町です。紀元前2000年、新石器時代にこの地域で作られた火打石が近隣地域に売られていた形跡があり、すでに交易都市としての片鱗を見せています。時代は下り、この肥沃な土地を通りかかったカエサルはモンスの丘に交通の重要性を見出し、ガリア人に対抗するための要塞を築きました。

　しかし、正式な町の歴史は7世紀半ば、人生を神に捧げることを決心した貴族のウォドリューWaudru夫人が、丘の上に礼拝堂を建てた時に始まります。ウォドリュー夫人は死去した688年に聖人となり崇拝の対象となりました。礼拝堂は9世紀に修道院へと発展し、12世紀には司教座聖堂参事会が設けられ、1450年から1621年にかけて聖ウォドリュー参事会教会Collegiale Sainte-Waudruが建てられました。設計の段階では190mの塔を建設する予定でしたが、町の財政事情のため実現しませんでした。12、13世紀頃からモンスは小麦の取引で賑わい、ビール醸造所、染物業者や製革業者のギルドができて繁栄していましたが、それが故に人口が急激に増大し、防備など町の維持費がかさんだ結果、財政はひっ迫していたのです。

　そんな中、町の立て直しのため城壁の再建を求める声が高まり、1661年、モンスの役人たちは再建の計画を決定します。この時、同時に検討されたのが鐘楼の建設でした。それまでに「時計塔」と呼ばれる塔があったのですが、ちょうど同じ年、恐らくは度重なる修復のためか塔が崩れ落ち、設置してあった鐘も完全に壊れてしまったのです。同じ場所に鐘楼を建てる案も出ましたが、監視台としての役割を重視して町の真ん中に建てることにしました。7年の建設期間を経て、鐘楼は1669年6月5日に完成しました。ベルギーで現存する鐘楼で唯一のバロック様式です。塔の高さは87m。丘の上に建てられていることもあって遠くからでもひときわ目立ち、今でも高速道路を車で走っていてもすぐにモンスの町がそこにあるとわかるほど。地上から38mのところに49個の鐘を持つカリヨンがあります。塔の頂上に据え付けられているのは金色に輝く風向計です。1964年には大嵐の被害に遭い壊れたこともあります。300年以上の歴史の中で、鐘楼は何度も修復されてきました。現在も修復のため閉鎖中です。鐘楼に上ることはできませんが、鐘楼そのものの美しい姿を見るには遠くから眺めるだけでも充分かもしれません。

真ん中に塔を据えたゴシック様式の市庁舎の入り口の左側の下のほうに、左手を頬にあててしゃがんでいる小さなサルの銅像があります。Grand Garde（見張り番）と呼ばれるサルで、中世に作られたとされ、子供のさらし台だったとか、パブの看板だったとかいう説もありますが、用途はいまだ不明。左手で頭を触ると幸運が訪れるそうです。御利益は1年間。たくさんの人に触られて頭だけ銀色に光っています。縁結びにもいいそうで、フィリップ皇太子が結婚前、マチルド妃とモンスを訪れ、サルの頭にさわっていったそうです。幸せになったのは、おサルさんのおかげ？