ベルギーのホットトピック 12月
アートとしてのうんち
フラマン人コンテンポラリー・アート作家Wim Delvoye氏(42)の代表作“Cloaca”の8つのシリーズが、9月からルクセンブルグで展示されている。“Cloaca”は人間の消化器官を巨大な装置で忠実に再現した作品で、つまりは「うんち製造マシーン」。一方の端から食物を入れると、10メートルはある長い消化過程を経てもう一方の端から悪臭を放つ本当の大便として排出されるという、構想8年、製作2年、総工費約2400万円の大作だ。
ゲントを活動拠点とする国際的なコンセプチュアル・アーティストのDelvoye氏は、Cloaca以前にも、生きた豚の背中一面にルイヴィトンのロゴを刺青して世の中のブランド志向を風刺したり、中世のステンドグラスにフットボールの試合を描き、豚の皮にキリスト像を刺青して宗教界のタブーを破ったり、また作品を大量生産してウェブサイトを立ち上げ、一般販売を試みるなど、一貫してスキャンダラスで挑発的な創作活動を展開している。
“2000年にアントワープでCloacaの第一号を発表した当初から、こういう(作品を大衆商品化する)アイデアを持ってたんです。(宣伝用の)Cloacaトレードマークも早々に決めていました。これはアートではなくて、商品なんです。僕はアーティストではなく、実業家のつもりだったんですよ。たとえ販売するのがうんちでもね。 ” (ルソワール紙より抜粋)
今回Cloaca発表以来初めての全シリーズ展示を行っているルクセンブルグ・カジノ・コンテンポラリー・アート・フォーラムはドイツやスイスで有名な “Kunsthalle”スタイル。つまり常設展示や所蔵品を持たない代わりに、スタッフが世界を駆け巡って探し集めた、コンテンポラリー・アートの傑作や傑出した人材で展示会を開いている。Enrico
Lunghiディレクターによると、Delvoye氏はこのギャラリーの開設当初からの常連アーティスト。展示では8台のマシーン(うち2台は常時作動中)の他に、人間だけでなく動物版Cloacaもあるデッサン画、製作風景ビデオ、未来のDelvoyeland用の模型、そして、コレクター用に真空パックに入れた排出物などが、明らかに大衆消費財のロゴをもじったとわかるトレードマークをつけて用意され、芸術の商業化という徹底的な異端ぶりを見せつけて苦笑を誘う。
“アーティストとして活動を始める当初は、皆金儲けしようとは思わないものです。アートスクールでは、いかにアート作品をその美の極みに近づけるかを学びます。経済的成功への欲についての話はタブーなんです。でも僕は最初から、その芸術的な理想と金銭的な欲との駆引きが面白いと思っていました。アーティストの中には、そういう部分に触れるのを避け、お客との交渉はギャラリー任せ、という人も多いんです。が、結果として、彼らはギャラリーがお客から取ってくる注文に従った作品を作るようになる。ベンツのトランクに入るサイズの作品をです。 ”(ルソワール紙より抜粋)
結局、本物のアーティストとしてより自由な芸術表現が出来るのは、皮肉にも実業家を名乗る彼のほうだ、とDelvoye氏は語っている。
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