プチポワ独占インタビュー
ベルギーで活躍する日本人

末次庸介さん

   今回は「和の心を伝える料理人」末次庸介さんです。在白３０年、日本食材をベルギーで簡単に購入出来る流通基盤を作り上げた方でもあります。現在、ご家族で「のんべえ大学」を切り盛りする忙しい毎日を送っていらっしゃいます。

Q. ベルギーに来られたきっかけは？
A.　1977年に赤坂の田川からブリュッセルの田川に転勤になりました。

Q. 当時と比べて、ブリュッセルはどのように変わりましたか？
A. 当時、日本人は約1200人。ほとんどが銀行や商社の駐在員でした。日本食材を簡単に購入することが出来ず、魚、大根、もやし、白菜等の食材を、ヨーロッパ中を走り回って集め、料理していました。田川の仲間でそのような食材を購入できるよう流通ルートを作りました。

Q. 在白30年で一番心に残った出会いは？
A. 色々な方の料理を担当させて頂きましたが、本田宗一郎さんが一番印象に残っています。来白されるたび、宿泊先のホテルに朝４時起きで朝食を作りに行っていました。最後に滞在された時、最終日の朝にもうベルギーには来られないと思うから、と一緒に写真を撮り、感謝の言葉を頂きました。本田さんが亡くなられた後に奥様が来白された時も、私を覚えてくださっていて感激しました。とても気配りのある方々でした。

Q. 海外でお仕事を続けられる原動力は？

A. 親しい仲間が常に私を支えてくれました。そのお陰で仕事を続けて来られたと思います。また、ベルギーにいたからこそ、色々な方に料理を味わっていただく機会を得、とても励みになりました。

Q. 2人のお子さんにとってはどんな父親ですか？
A. 仕事柄帰宅時間も遅く、子育ては全て妻に任せていましたが、休日の仕込みの時には子どもを職場に連れて行き、私の働く姿を見せていました。今になって思えば、子ども達がそれぞれ自分の道を決めるにあたり、少なからず影響を与えたように思います。会社に勤務されるお父さんには、働く姿をお子さんに見せる機会は少ないかもしれませんが、例えば「このビルの中にお父さんの会社があるんだよ」ということだけでも、仕事をする父親をイメージできていいのではないかと思います。

Q. 「のんべえ大学」の名前の由来は？
A. 幼少の頃に父を亡くし、母が荻窪で「のんべえ大学」という料理屋をやりながら、育ててくれました。若い頃の
石原慎太郎、露木茂、遠藤実さんなどがよくいらしていましたね。1984年、私が結婚した年に母は来白。3年前に亡くなる前に「もう一度のんべえ大学をやりたいね」と言い遺しました。私の面倒をよく見て下さった先代の田川のおかみさんも亡くなりましたので独立し、母の念願の店を再び開店しました。

Q. 新しく自分の店を出して、変化したと思うことはありますか？
A. 体力的には大変ですが、カウンターに立つことでお客様との距離が近くなりました。それぞれの嗜好に合わせてお好みのものを、メニューになくても作ることができますし、お客様と対話する中で、料理プラスαの楽しみを提供していけるようにしたいです。

Q. これからの夢は？
A. 1人の息子が料理とサービスを、もう1人が会計学を勉強していて、週末には店を手伝ってくれています。私が母から受け継いだ店を、今度は私から子どもに伝えられたらいいなと思っています。

Q. お勧めレストランを紹介してください。
A.コム・シェ・ソワはやはりすばらしいレストランだと思います。味はもちろんですが、お客様を第一に考えた徹底したサービスをぜひ体験してみてください。また、最近家族でよく食事に行く*レストランがハルの森の近くにあります。実は、私はクリームを使った料理が苦手なんですが、この店はまた来たいと思える味もボリュームも満点のベルギー料理店です。

*Taverne-Restaurant ‘t Kriekske
Kapittel 10, 1500 Halle Tel 02-380.14.21

人との繋がりを大切にして30年。穏やかで物静かな人柄の中に、心を込めて料理を作る料理人魂を見ることが出来たように思います。