ベルギーのホットトピック　10月
国籍を巡る闘争

　　世界的に著名なベルギー人中国学者、ピエール・ライクマン（ペンネーム：シモン・レー）氏（72）が中国人女性ハンファンさんと結婚したのは1964年。彼女は結婚によってベルギー国籍を取得した。3年後には香港で双子の兄弟マークとルイが誕生。その後さらに2人の子供に恵まれ6人家族となったライクマン家はしばらくしてオーストラリアに移住した。一家はベルギー国籍のまま、パスポートを更新しつつ生活してきた。

　　昨年12月、キャンベラのベルギー大使館は突然マークとルイのパスポート更新申請を却下した。1967年以降に国外で誕生した彼らには84年施行の新国籍法が適用される。ベルギー国籍を保持したい場合、満28歳までに手続きをしなければならない、というものだ。2人はこれをしていなかったので28歳でベルギー国籍を喪失している。1995年以降、彼らのパスポートは間違って更新され続けてきた、というのが大使館の説明だった。

　　この84年の法律は、ベルギー国籍剥奪によって無国籍になる場合は手続きなしでも国籍保持に問題ない、としているにもかかわらず、ベルギー外務省は今年6月、「2人は状況から鑑みて中国国籍がもらえるはずだ」とし、「中国国籍の取得については、中国の担当当局から確認を取るように」と一方的に通告した。

　　長年に渡って中国共産党政府の批判を続けてきたライクマン氏が、北京政府に子供達の国籍を依頼できるはずがない。それ以前に、双子が生まれた当時の香港はイギリス領で、中国ではなかった。母親は中国出身だが、出産当時は既にベルギー国籍だった。しかも、彼女の中国籍は革命前夜の1947年に彼女が両親と国外脱出する前のもので、現在の共産党政府とは無関係だ。まるで悪い冗談のような話、とライクマン氏はベルギー外務省の仕打ちに驚きを隠せない。
　　話はまだ続く。反論を受けて外務省は1949年の中国（?介石政権）の法律を見つけ出した。結婚の際、外国籍を取得しても、特別なケースを除き中国籍は失わない、と規定したもので、これに基づいてハンファンさんは結婚後も中国籍を保持しているはずだ、という。だが49年当時の中国政府は事実上消失していて、当時の法律に効力などない上、母親の国籍は子供達には関係ない。一方、ライクマン氏の調べたところによると、1984年のベルギー新法によれば、10年以上ベルギー人であったという既得権で子供達はベルギー国籍存続を求めることができるはずなのだ。

　　「これは、政治や行政の矛盾、非合理性、傲慢さが、中国だけの問題ではないことを物語る如実なケースだ」、と憤慨するライクマン氏。外交官、文学アカデミー会員などを歴任し、文化大革命やマオイズム(毛沢東思想)批判で知られる学者として名高い同氏は、「人生最後の闘争だ」と、子供達のベルギー国籍保持のため、とことんベルギー政府当局と戦う覚悟をしている。