ヨーロッパに来てしみじみ感じることは、「素晴らしい先達のお陰で、僕たちは今快適に暮らすことができている」ということである。例えば、空港で、ホテルで、日本のパスポートを見せれば、大抵お咎（とが）めを受けることはない。これは、つまり今まで彼らの接してきた日本人が、如何（いか）にノープロブレムだったかということで、ひょっとしたらノープロブレムどころか、トレビアンだった可能性もあり得るということなのである。

　　仕事の面でも、日本人であることが有利に働くことが多く、日本人＝勤勉かつ、忠を重んじる民族であるということが、ここヨーロッパでは一般的な見方のように思われる。ただし、「ジャパニーズは、24時間寝ずに働くとは本当か？」とか、「ジャパニーズは、上司のためなら腹を切るのか？」とか、少々誤解を受けていることは否めないと思うが、それでも、「ジャパニーズは全く働かないし、会社から野放しにされているのか？」と言われるよりは、随分マシである。

　　実際、日本人は、仕事とプライベートの境界が曖昧であり、昼休みや定時後に業務連絡が回ってくることは別に珍しいことではないし、そういうのを傍（はた）で見ていると、24時間働いているように見えるのかもしれない。いずれにせよ、そのイメージというのは誰か一人が作り上げたものではなく、また昨日今日出来上がったわけでもない。脈々とここヨーロッパに旅行、駐在、もしくは永住してきた先達が作り上げ てきたものであり、そのお陰で僕達が快適に暮らせているのである。そこは、感謝すべきであり、また自分も良き先達の一員となれるよう振舞うべきであろう。

　　日本人と、ヨーロッパ人。肌の色も違えば、体格も違い、食べ物、言葉、慣習全てが違う。ただ、やはり、「ありがとう」と言われれば、悪い気はしないし、「ごめんなさい」と言われれば、多少は気も紛れるだろう。笑顔を見ればほっとするし、泣いていれば気にもなる。結局そういうファンダメンタルなところで、人と人は信頼しあったりするものなのだろうと、この４年の駐在最後の年に思う。言葉や慣習の習得はもちろん大切だが、まずはやっぱり、笑顔で「ありがとう」、誠意を持って「ごめんなさい」を言える日本人であって欲しいし、自分自身そうありたいと思う。

　　目玉が飛び出るほど高い欧州系日本料理屋で、さしみを頼んだらカルパッチョが出てきても、中華系日本料理屋で期待していた熱燗が「チンッ」という音とともに運ばれてきて、それが地獄の釜のように沸騰していたとしても、笑顔で先ずは「ありがとう」と言いたい。それが理想である。残念ながら、どちらのケースも大人気なく嫌な顔をしてしまった僕は、彼らにとって、良い日本人でなかったかもしれないが、きちんと代金は支払ったので勘弁していただきたい。

　　次回、海外駐在時まで、ジェントルマン道で精進し、その時こそは、素晴らしい日本人となれるよう目標を掲げ、ここで筆を置くことにする。


連載４回と短い期間ではありましたが、駄文にお付き合いいただき、
ありがとうございました。
−ＰＩＲＯ−