Ortelius家は曾祖父の代から薬局を家業として、裕福な生活を
営んでいました。父はラテン／ギリシャ語の教養があり、義兄に
協力して、英国の有名な聖書『Miles Coverdale Bible』を翻訳し
ています。1535年、異端の本を持っている疑いをかけられ、2人
とも起訴されましたが、結局は免訴となりました。

1539年この父は若くして死に、当時12才だったAbraham は叔
父の後見で育てられることになります。従弟とは分け隔てなく扱
われましたが，従弟がTournai とDuffelの大学に進んだのに対
し、彼は地図印刷の見習いを始め、1547年に写本装飾術士と
してSt. Lucのギルドに登録しています。この部門は商人、とくに
航海をする人々にとって重要な部門でした。

1550年叔父が死んだ時彼は23才でしたが既に家長とし
ての役割をつとめていました。この頃の様子を友人は
「背が高く、優雅な気品があり、ブロンドの髪にブルーの
目、人々に親切で、 蘭、独、仏、スペイン、ラテン、ギリ
シャ語に長じ、、、」と述べていますから教養のあるなかな
かスマートな紳士だったと思われます。彼は毎年フランク
フルトで開催されるヨーロッパ最大の市に参加して、アン
ティークと地図についての経験を積んだようです。

特筆すべき友人としてはGoltziusとMercatorがあげられます。
Goltziusはアントワープのアンティーク商で、一緒に旅行をしたり共通の趣味を分かち
合っていたようです。 Goltziusにはコインについての素晴らしい
著書があります。Mercatorについてはプチサブロンシリーズ14に
あるとおり、現代の地図、いわゆるメルカトール図法を作った人です
が、Orteliusとは1560年に上記のフランクフルト
で知り合います。

Mercatorはヨーロッパの地図を出版したばかりの
時で、彼の数学的な傾向と Orteliusのただ単に地図を描くばか
りでなく、もっと広い視野に立って、これを組み立て直そうという
意欲が二人をしっかりとした友情の絆で結ばれていました。
1530年、彼等は他の友人たちとフランスのTreve、Lorraine、Poiriersを
旅行しPierre-Leveeにあるドルイドの碑に自分たちの名を刻みました。（今
でいう落書きですね） これが、Orteliusにとって最初のサインとなりま
した。この旅行から帰ってOrteliusは自分の観察したことを纏めて描いた最初の地図にサインし、これが第2番目のサインです。

Orteliusには数多くの著作がありますが、中でも特筆すべきものは『Theatrum orbis terrarum』です。アントワープのGillesCoppensで印刷され、Phillipe IIに献上されました。これには53枚の地図が記載されていて、発行と同時に売れ行きは素晴らしく初版本は忽ち売り切れ、第2版はラテン語だけだったのが1571年の第3版はラテン語とフラマン語、次の年にはドイツ語とフランス語版が加えられ、その後彼の死後も1612年第25版まで続きました。なお、この本の代金は30フローランで16世紀最高の値段だそうです。

Benito Arias Montano という学者が、当時この地方の支配
者であったスペインのPilippe II によってプランタン印刷所での
印刷物について監視するようアントワープに派遣されていまし
たが，Orteliusと親しく交際し彼にGeographe du roi（王室地理
学者）の称号を贈り、Albe公自身がこの栄誉ある称号を授けて
います。