時は激しく揺れ動く17世紀初頭、2 度にわたる 秀吉の朝鮮出兵からの引き上げの際、鍋島 (なべし ま) 軍は多くの陶工たちを日本に連れ帰りました。 その中には有田焼の陶祖と崇められている李参平 (りさんぺい) の姿もありました。1616 年、李参平 は理想的な陶石を有田の泉山 (いずみやま) で発見し、日本で初めて白磁の焼成に成功したのです。1643 年頃には、初代柿右衛門により、中国の赤絵を元に始められた「柿右衛門」が完成しました。一方、 その頃、オランダ東インド会社 (1602 年設立) の商船が、中国の色絵磁器、景徳鎮の買い付けのために中国に来ていました。

ところが、中国は、明から清への王朝交代で国内は大混乱。中国磁器の輸出どころではありませんでした。そこでオランダ商人は、中国に近い有田に目を付け、初めは代替品として有田焼を長崎の出島を通じ、ヨーロッパに運び込んだのでした。 硬質磁器の妖しい白い肌に魅せられたハプスブルグ家、ブルボン家、ハノーバー家といったヨーロッパの王侯貴族らは富と権力の象徴として、競って有田焼を買い集めました。中でもドイツ・ザクセン王国 (ドレスデン) の王アウグスト�T世は、買い集めるだけでは飽き足らず、1710 年、若干19 歳の錬金術師ベドガーをアルブレヒト城(Albrechtsburg) に幽閉し、そこでヨーロッパの原料を使用し、柿右衛門を模倣した磁器の発明を命じたのです。これがマイセン製陶工場です。

こうしてマイセンがヨーロッパの磁器の発祥の地となりました。そこでは、彫像家ケンドラーと絵付師ヘロルトが磁器用の絵具を完成させ、初期の黄金時代を 築きました。この頃、ヨーロッパで流行していた磁器の絵柄はシノワズリ (中国趣味) と呼ばれ、城塞建築にも少なからず影響を与え、後期バロック調からロコ コ調への発展へとつながりました。アウグスト�T世は、これまでの日本陶磁器コレクションを 基に、ドレスデンに陶磁器美術館を設立し、「日本宮」と名付けました。1861 年、工場はアルブレヒト城から現在のトリービッシュタール (Triebischtal) に移転 し、以降もずっと伝統的な手作業が続けられています。 マイセンの代表作には、東洋の模倣から離れ、ドイツらしさを求めた小花パターンの「マイセンフラワー」や鮮やかなコバルトブルーで絵付けした「ブルーオニオン」があります。

もともとブルーオニオンの原画はザクロだったはず なのですが、ヨーロッパの人にはこれがタマネギに見えたのか、この名前が付けられました。ブルーオニオンに描かれたザクロ (タマネギ) と桃と小花。実はこの3 種類のモチーフには、秘められた壮大な配置関係があります。4つに均等に配置された構図は、四季・方角・時間などを表し、3 種類のモチーフが過去、現在、未来を表しているのです。 また、4 と3 を掛けた12 が星座を意味し、お皿全体で人間の一生や宇宙の永遠を表現しているのだとか。 アンティークのポーセリン。この白い磁器を介し、約300 年前の王侯貴族らはどんな政略やロマンスを交わしていたのでしょうか。想像しながらいただくコーヒーは一味違うかもしれません。