グランプラスのビール祭りで「Kwak」を飲んでいた時のことです。
同じテーブルに居合わせた学生とおぼしきベルギー人青年が、
「失礼ですが、クワックは木のスタンドから外して飲むのが正式な
んですよ」と忠告してくれました。なるほど…、とその場は従ったも
のの、その後見たTV番組でも、カフェで尋ねてみても「スタンドを
持って飲む」とのこと。さーて皆さん、“どっちがホント”だと思いま
すか？

「PAUWEL KWAK」は、ブ
リュッセルから北北西20km
程に位置するBuggenhoutに
あるボステール (Bosteels)
醸造所で、約80年前から造ら
れています。もともとは18世
紀末、ナポレオンの時代に
Dendermondeで宿屋を商う傍ら醸造所も営んでいたパウエル・クワックという人物が造っていました。この時代には、宿屋は乗り合い馬車の休憩所にも使われ、お客は気軽にカフェに寄れるものの、御者は当時の法律により（セキュリティ上の理由から）馬から離れることを禁じられていました。そこで彼は、一杯やることが出来ない御者のために、特別のグラスを御者台横の鉤 (かぎ) に引っかける方法を考え出したのです。それがこの木の土台をもつ、フラスコのような独特の形のグラスでした。当時はかなり評判になったようです。そしてそのビールを、パウエル氏のレシピ通り復活させたのが創業200年以上、7世代にわたるボステール醸造所でした。

少々アルコール度数高め (8.1%) のこのビール、ほんのり甘み
を感じさせる香りと味はヌガーとキャラメルバナナと言われれば納
得です。最初の口当たりは爽やかですが、飲み進めていくうちにアルコール度数と甘みで重い口当たりになっていきます。

そして何といってもKwak
を有名にしているのは、この
独自のグラスです。こだわり
のオリジナルグラスにはこだ
わりの注ぎかたがあります。
まずグラスは完全に乾かし、
5~6℃であること。軽くグラス
を傾けて注ぎ始めると、最初
は泡だらけに！ しかし慌てず注ぎ続けると、ゆっくりと液体と泡の境目が上昇していきます。グラスのふちから2cmほどの位置まで注ぎきり、そのまま15秒ほど泡が落ち着くのを待ちます。落ち着いた状態で、泡の境目がグラスのふちまで7cmほどの位置にあれば、完璧です。この泡の過程を称して「黄金のドレスが白いドレスになる」というとか。オーナー曰く「勿論、木製スタンドを持って飲んでもいいのですが、古き良き時代を懐かしむなら、是非スタンドを持たず、グラスだけを持って当時の四輪馬車の風情に思いを馳せながら飲んでみてください」…という訳で、たまにはグラスだけ持って飲むのもオツなようです。ちなみに「クワック」とは、このグラスで飲む時 （最後の方） のボゴッという音にもかけているそうです。

おまけ情報
銘柄は「Kwak」ではありませんが、「巨大ロンググラス」で飲ませてくれるお店がゲント（金曜広場）にあります。グラス盗難防止のために、履いている靴を片方だけ質に取られるのもまた一興。ただし、お祭りなどで超多忙の際は注文できない時もありますのであしからず。
注文は「MAX （お店のオリジナルビール）」で OK。約 1L 入りの豪快なビールをお試しあれ。
De Dule Griet
Vrijdagmarkt 50, 9000 Gent

この記事は 2000 年にプチポワに連載されたものを加筆修正してお届けしています。